データ活用コラム

生成AIの費用対効果をどう測る?ROI指標と見落としがちな観点を解説

近年、生成AIは業務効率化や新規事業開発など様々な用途で注目されていますが、初期導入の時点で期待値と実際の成果にギャップが生まれるケースも少なくありません。ROIを算出する際には、技術そのものの性能だけでなく、人材育成コストやデータ管理、さらに法規制・倫理面への対応など、多面的な視点が必要です。
生成AI導入のROI(投資対効果)を正しく測るには、単純なライセンス費用や時短効果だけでは不十分です。本記事では、ROI算出における盲点や評価指標の定義、そしてそれらを最大化するためのデータ基盤の重要性について解説します。

生成AI

データ活用

Shinnosuke Yamamoto -読み終わるまで6分

一面的なROI算出を防ぐには

多くの企業では、ROIを限られた要素のみで計算しがちです。本セクションでは、多面的な視点を欠いたROIの算出方法がもたらす問題点について掘り下げます。

「導入したのに使われない」の真因

生成AI導入後に実際の利用が伸び悩む原因として、ユーザーのスキル不足だけでなく、運用面の不便さやAIの回答に対する信頼性の低さが挙げられます。特に実運用において、AIの出力が正確ではなかったり、対象業務に適合していなかったりすると、一度の失敗で活用熱が急激に下がることがあります。

ROIを試算する際、初期導入費用と短期的な工数削減効果のみを計算に入れてしまうと、長期運用での活用度や改善プロセスが軽視されがちです。ある程度の時短効果が出ていても、更新が必要なデータの整備やメンテナンスが放置されていれば、長い目で見た投資対効果は下がってしまうでしょう。そのため、時短効果だけを指標とするのではなく、複数の観点から評価するアプローチが求められます。

見落とされている「隠れた変数」

ROIに影響を与える要素は、ライセンスコストや簡単な時短効果だけではありません。例えば、従業員の習熟度や組織内の情報回流、データの品質・整理レベルといった定性的な要素が大きく効いてきます。こうした“隠れた変数”は数値化しにくい一方で、結果を大きく左右します。

投資対効果を求めてAIに高い期待を寄せる企業は多いですが、実際にはAIが扱うデータ自体が整備されていなければ、その性能を十分に発揮できません。質の低いデータを入力すると、AIの回答はハルシネーションを含む不正確な情報になりがちです。その結果、現場の信頼が損なわれ、結局ほとんど使われなくなるという事態を招く可能性があります。

生成AIにおけるROI算出の基本フレームワーク

従来のIT投資とは異なる観点で、生成AIのROIを捉える必要があります。本セクションでは、従来のIT投資との考え方の違いとROIの定義について整理します。

従来のIT投資との決定的な違い

ハードウェア・ソフトウェアの購入という形で機能(Function)を導入するのではなく、AIにより人材や組織の知識を高め、問題解決能力を高める投資である点が大きな相違点です。新しい機能を得るだけでなく、それを使いこなせるスキルと知見を育てる必要があるため、継続的なトレーニングやデータ強化のプロセスが伴います。

生成AIを導入しただけで効果が出るわけではなく、その知識活用や継続的な学習を促進する仕組みと支援体制がないと、期待した成果が得られません。よって、導入後の運用・教育にかかるコストもROIを計算するうえで重要な要素になります。

さらに、情報管理の仕方や社内コミュニケーションのデジタル化など、組織全体で新しいスキルやプロセスを習得することで、真の投資対効果を最大化できるのです。

ROIの計算式を再定義する

従来のROI計算式(利益 ÷ 投資コスト)に加えて、生成AIならではの「データ整備コスト」や「学習・運用継続コスト」を考慮しなければ、真の投資対効果を把握できません。たとえば外部ベンダーの力を借りながらデータをクレンジングし、モデルをカスタマイズしていくプロセスには、導入よりも大きなコストがかかる場合があります。そこでROIの算出方法を再定義したのが以下の計算式です。

ROI = (Output価値 - 総保有コスト) ÷ 総保有コスト

この計算式では、AIによって生み出される成果の価値を総保有コストと比較し、割合で表します。Output価値には、従業員の工数削減や新規ビジネス創出による追加利益などが含まれる反面、総保有コストにはライセンス費用のほかに、データの整備やメンテナンス、人材教育費等がすべて含まれます。

この総保有コストを過小に見積もると、ROIを過大に評価してしまうリスクがあります。特に運用初期は不確定要素も多いため、試算段階でコストを保守的に設定し、柔軟に見直すことが重要です。

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成果(Output)をどう可視化するか

成果を可視化する方法としては、速度やコスト削減効果のように定量化しやすい項目(Hard ROI)と、組織のナレッジ活用度合いや従業員満足度のような定性的項目(Soft ROI)をセットで評価することが望ましいです。成果を「ハード」と「ソフト」の両面で評価することで、AI導入の真の効果が見えてきます。

Hard ROI(効率・コスト)

Hard ROIは、導入による直接的なコスト削減や効率化効果を指標として計測します。短時間で結果が出やすく、経営層へのアピールもしやすい部分ともいえます。

しかし、短期的な観点のみでROIを算出すると、追加的な教育コストやデータのメンテナンスコストといった継続的な投資要素が見落とされる可能性があるため、注意が必要です。

時間対効果: 検索・要約・作成にかかる工数削減率

生成AIを活用して文章作成や要約作業などを効率化した結果、従来の作業時間と比べてどれだけ削減できたかを具体的な数値で把握します。特に社員が繰り返し行う定型業務では、AIの活用幅が広がるほど大きな労働コスト低減が見込まれます。

時間削減の効果が可視化されると、現場スタッフのモチベーションが上がりやすく、追加導入の検討もスムーズになるケースが多いです。

代替コスト: 外部委託費用の削減額、ツール集約によるコスト減

これまで人手や外注に頼ってきたプログラム開発や翻訳作業などをAIで内製化できるようになると、それまで支払っていた外部委託費用が削減できます。

また複数の機能を別々のツールで賄っていた場合、生成AIプラットフォームに統合することで管理コストの削減も期待できるでしょう。こうしたコスト削減分は、わかりやすいROI指標の一つとなります。

Soft ROI(質・組織力)

定量的指標では測りにくい面も、生成AIの導入効果を考えるうえでは欠かせません。例えば、従業員体験(EX)の向上や組織としての情報共有の深まりなどがソフトROIとして挙げられます。

特に企業文化や従業員の満足度は、長期的に見れば人材定着率やイノベーション創出などに影響を与え、結果として経済的な利益にもつながる可能性があります。

回答精度と実用率: 生成された回答がそのまま業務に使えた割合(修正なし率)

AIが出した回答や提案をどの程度そのまま使えたかを測定することで、AIの実用レベルを客観的に把握できます。修正が少なければ少ないほど、現場での信頼度が高まっていることを示し、ROI向上にも直結します。

一方で、無修正率ばかりを追求すると、AIに過度な期待をかけてしまうリスクもあります。修正の数だけでなく、どの部分で修正が必要だったのかを分析し、根本原因を改善することで精度向上を図ることが重要です。

従業員体験(EX): 「探す時間」の削減によるコア業務への集中度合い

従業員が日々の業務で情報収集や書類整理に費やす時間を削減できれば、企画立案や対面コミュニケーションなど、付加価値の高いコア業務により多くの時間を割けます。

このようなポジティブな効果は定性的な部分ではありますが、長期的には従業員のモチベーションや人材定着率を高め、組織力強化につながるため、結果的にROIを底上げしていく要因となります。

ナレッジの民主化: ベテランの暗黙知が、AI経由で若手にどれだけ活用されたか(検索ヒット率など)

ベテラン社員の経験やノウハウがデジタル化され、AIを通じて誰でもアクセスできるようになることで、個人に依存しない体制作りが可能になります。検索ヒット率や回答精度を指標にすることで、相互に知識を補完し合う場が整備されるのです。

こうした知識の民主化は組織全体の底力を高め、新入社員や若手社員の育成スピード向上にも寄与します。結果として、多様な業務で生成AIを活用しやすくなり、投資対効果の拡大が見込めます。

ROIを左右する「隠れた変数」:データ品質の罠

AIは入力されたデータをもとに学習を行うため、データが正しく整備されていないと、どんなに高度なモデルを適用しても誤ったアウトプットが返ってきてしまいます。いくら投資をしても、肝心の燃料が劣悪ではエンジンの性能を最大化できないのです。データの質により、AIが生み出す成果は大きく変わります。ここでは見落とされがちなデータ品質の重要性を検証します。

「Garbage In, Garbage Out」の再来

昔から情報システムの世界では、低品質のデータを入力すると低品質の結果しか得られないという戒めが存在します。生成AIにおいてもこれは同様で、たとえ最先端のモデルを使っていても、データが誤っていればまともなROIは望めません。

RAGやファインチューニングでは、既存のデータを参照して回答精度を高めますが、そもそもデータが整理されていなければ適切な参照ができず、誤った答えを導く可能性が高まります。

AIが返す回答が幾度となく間違っていると、忙しい現場では「結局使えないツール」として認識されやすくなります。その結果、利用率は加速度的に低下し、投資したコストが回収できなくなります。

非構造化データの「構造化」こそが資産

膨大なPDFファイル、手書きの議事録、バラバラのフォルダに保管された画像や音声ファイル——こうした非構造化データを整理して扱える形にすることが、実は企業にとって大きな資産となります。

情報が散在していると、同じ作業を繰り返し行う非効率や、誤った資料が使われるリスクが高まります。データをきちんと整理すれば、これまで眠っていた社内情報から新しい知見を引き出したり、意思決定に資する材料を簡単に取り出したりすることが可能になるのです。

データメンテナンスという「維持コスト」

AIモデルは常に最新かつ正確なデータをベースに運用されることでこそ、価値を生み出し続けます。しかし、企業内の情報は時間とともに変化するため、メンテナンスを怠れば誤った情報をAIが学習・参照してしまうリスクが高まります。

変化した事実に対応しないままのドキュメントを、AIが延々と参照し続けると、実態とズレた回答を提示してしまいます。特に業界動向が激しい場合には、古いデータのままでは競合に後れを取る可能性もあるでしょう。

したがって、データを常に最新の状態に保つプロセスを運用ルールとして定めるとともに、定期的なレビューや更新を仕組み化していく必要があります。

結論:AI活用は「データ整備」から始まる

生成AIの性能は、ベースとなる学習データと、その運用環境に大きく左右されます。どんなに優れたアルゴリズムを使っていても、データの質が悪ければ誤った推論をしてしまい、ユーザーはすぐに不便さを感じて離れてしまいます。

最新のモデルや大規模なクラウドサービスを導入すれば成果が出ると考えられがちですが、実際には高価なモデルを利用してもデータ管理がずさんであれば効果は限定的です。

また、多くの企業では部門ごとに異なるシステムやフォーマットが混在しており、これを統合しながら更新していく作業は長期的な視点で進めざるを得ません。一方で、このプロセス自体が知的財産を可視化する取り組みにもなるため、継続的に取り組む姿勢が必要です。

最終的には、個別のツール活用にとどまらず、経営レベルでの意思決定にまで生成AIのメリットが及ぶ形を目指すことで、競争優位性の確立と継続的なROIの伸長を期待することができます。

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執筆者プロフィール

山本 進之介

  • ・所 属:データインテグレーションコンサルティング部 Data & AI エバンジェリスト
  • 入社後、データエンジニアとして大手製造業のお客様を中心にデータ基盤の設計・開発に従事。その後、データ連携の標準化や生成AI環境の導入に関する事業企画に携わる。2023年4月からはプリセールスとして、データ基盤に関わる提案およびサービス企画を行いながら、セミナーでの講演など、「データ×生成AI」領域のエバンジェリストとして活動。趣味は離島旅行と露天風呂巡り。
  • (所属は掲載時のものです)

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