データクレンジングの進め方
具体的な進め方や注意点を解説
データ活用において、情報の正確性や整合性を高めるためには、データクレンジングが欠かせません。誤ったデータや重複データを放置していると、分析結果の信頼性を損ねるだけでなく、意思決定にも悪影響を及ぼします。
本記事では、効果的なデータクレンジングを実現するためのプロセスや具体的な方法、Excelでの整理テクニックなどを解説し、ビジネスでのデータ活用をよりスムーズに進めるヒントをご紹介します。
Yumi Ogawa
-読み終わるまで6分

データクレンジングのプロセスと考慮すべきポイント
まずはクレンジング作業を進める上での全体的な流れや、事前に考慮すべきポイントを整理します。
データクレンジングでは、対象データの範囲を明確に設定し、データ品質を把握することから始めます。情報の欠落や整合性の欠如があるままでは、分析結果の誤差やビジネス上の意思決定を誤る恐れがあるからです。
また、データ品質基準を設定し、修正ルールや入力規則を細かく決めておくことで、クレンジング作業がスムーズに進みます。基準が曖昧だと、チーム内で表記揺れや判断のばらつきが生じ、結果的に全体品質を損ねるリスクが高まるため注意が必要です。
失敗しないデータクレンジングのプロセス
おおまかには、以下のような手順で進めていくのが、失敗を回避するコツです。
- 1.データ活用の目的を定義する
- 2.目的を達成するために必要なデータ品質を定義する
- 3.現状のデータを確認し、課題を特定する
- 4.優先順位を決めて修正する
続いてデータクレンジングで考慮すべきポイントを確認していきましょう。
クレンジング対象の設定とデータ品質の分析
まずはどのデータをどこまで修正するのか、目的と範囲を明確にしましょう。全角・半角が混在した文字列や、日付・住所の形式がバラバラになっている部分を中心に確認していくと効率的です。データ品質の分析においては、現在のデータ状態を数値や指標で示し、問題点を洗い出すことで適切な優先度を設定できます。
例えば顧客情報の場合、重複したレコードがないか、表記揺れが数多く見られないかなどをチェックしてみるとよいでしょう。データの利用目的が明確であれば、クリーニングすべき箇所の優先順位も立てやすくなり、リソースの配分を最適化できます。
正確なデータ品質基準の設定
データの正確性や完全性といった指標を事前に設定しておくことで、クレンジングの方向性をより具体化できます。例えば、各種項目における必須入力条件や受け付ける形式、文字数制限などを明示しておき、逸脱している場合は修正・補完する方針を決めておくとスムーズです。
ただし指標が多すぎると作業が煩雑になるため、ビジネスでの活用に直結する指標から優先的に導入するなど、運用しやすさも考慮する必要があります。
データの入力規則を定める
入力規則を明確に定めることで、不適切かつ不要なデータが入り込むリスクを最小化できます。例えば住所フィールドは都道府県・市区町村・番地などの区分を整えて入力を促す、日付のフォーマットは西暦で統一するなど、細かなルール設定が重要です。
このような規則は後の整合性確保にも大きく寄与します。データベースや管理システムだけでなく、Excelやアンケートフォームなど、入力の場面に応じた決まりを導入しましょう。
データクレンジングの業務フロー構築
データクレンジングは一度きりでは終わらず、定期的に実行することで品質が維持されます。担当者のアサインや利用ツールの選定、作業手順の標準化などを設計し、組織として継続的に取り組める体制を整えましょう。
具体的には、毎月・毎四半期などの頻度でクレンジング対象のデータを抽出、ルールに基づき修正し、最終確認を経て保存や分析に回すという流れを確立しておくのがおすすめです。
データクレンジングの具体的な進め方
次に、具体的な作業方法を段階的に解説し、効率的にクレンジングを進めるためのヒントを示します。
データクレンジング作業は、対象項目を明確にした上で機械的に修正できる部分と、人間の判断を要する部分を切り分けるのが有効です。ツールやスクリプトで処理できる範囲を広げることで、煩雑さを大幅に軽減できます。一方で、人力でしか気づけない誤表記や表記揺れは、最終的に目視確認で補うことが必要です。
データクレンジングの対象項目
例えば顧客名や住所、電話番号などはフォーマットの乱れが頻出しやすい項目です。複数のシステムから集約されたデータは、入力規則が一様でないケースが多く、全角・半角やカタカナ・ひらがな表記などのズレが蓄積しがちです。こうした項目を優先的に見直すことが、クレンジング作業全体の効率アップにつながります。
また、不要データや無関係な項目まで扱うと作業コストが増大してしまうので、分析や業務上の意思決定に直結する項目から手をつけるとよいでしょう。
表記の揺れ(統一されていない表記を調整)
- 企業名:「株式会社」「(株)」「㈱」「カ)」などの法人格、全半角などの統一
- 個人名:姓名の分離方法(全角スペース、半角スペース、セルなど)
- 住所:郵便番号のハイフン、番地の表記(全角数字、半角数字、漢数字)など
- 電話番号:市外局番の表記方法、ハイフンの有無など
データの欠損(部分的なデータ欠損の補完)
- 企業や担当者名の欠損:企業名、法人格、担当者名、役職名など
- 用途に応じた必要データの欠損:上場区分、従業員数、売上高、業種、商品の購入履歴、顧客の流入チャネルなど
誤表記(入力ミス、入力内容の誤りの修正)
- 企業名:アルファベット、カタカナ、拗音、中黒の有無など
- 法人格:法人格の位置、法人格の種類(株式会社、合同会社、合資会社、合名会社、NPO法人、一般社団法人、一般財団法人)など
- 住所:市町村合併にともなう名称変更への対応など
- 電電話番号:市外局番の変更への対応など
機械的なデータクレンジング
機械的なデータクレンジングは、決められたルールやスクリプトによって誤記や重複を自動修正・統合する手法です。例えば全角を半角にそろえる処理や、Excelの関数やPythonのライブラリを利用して既定のパターンを自動的に正規化することが挙げられます。大量データを取り扱う場合には、処理を自動化することで大幅に工数を削減できます。
ただし、完全に自動化するには事前のルール設定が緻密である必要があり、違反データの想定外のパターンが多い場合は多少の手動確認が不可欠です。
自動化や専用ツールの活用
ETLツールやAI技術を使えば、単純な正規化に留まらず、複雑なパターン認識や名寄せ処理を自動で行うことも可能です。AWS GlueやTalendなどは大量データの変換・クレンジングに対応しており、導入することで手動作業をさらに削減できるでしょう。
データ規模やチームのスキルセットに合わせて、Excelのマクロやクラウドサービスなど、最適なレベルの自動化手段を検討するのがポイントです。
手作業でのデータクレンジング
ツールやスクリプトではカバーしきれない特殊ケースや、微妙な表記ゆれを見つけるには人の目と判断が欠かせません。機械的な処理で見落とされやすい部分を補完することで、データの信頼度を大幅に高めることができます。
同時に、手動チェックにはコストや時間がかかるため、定期的に行う範囲や頻度を明確に定め、無理なく行える体制を整えることが大切です。
表記揺れや重複データの検出と修正方法
例えば法人名の表記ゆれ(株式会社の有無など)や、郵便番号が重複・欠落しているケースは、人力でリストアップしながらまとめて修正する方法が有効です。Excelでフィルタを活用しながら複数行を一括編集したり、SQLで類似検索をかける手法などが一般的なアプローチです。
表記揺れの統一は企業の信頼性にも影響するため、修正ルールを定めて一貫した管理を行いましょう。
欠損値の補完方法
欠損値は他のソースを参照して推定値を埋める場合や、補完が難しい場合は既定値を設定するなど、目的に合わせた対処が必要です。例えば顧客データで住所が空欄の場合、市区町村レベルでも補完しておくとエリア分析が精度を保ちやすくなります。
また、重要項目の欠損が許容範囲を超える場合は、データ入力プロセスやシステムそのものを見直すなど、長期的な対策も検討することが大切です。
Excelでのデータ整理と関数の活用
身近なツールであるExcelを用いたデータの整形・管理のポイントを解説します。
Excelは企業の現場でも頻繁に用いられるため、手軽にデータクレンジングを始めるには便利なツールです。たとえばVLOOKUPやINDEX関数を活用して別シートのマスタ情報と突合することで、欠損値の自動補完や誤記の修正を効率化できます。
また、条件付き書式を使って異常値や重複データをハイライト表示するなど、視覚的に誤りを見つけやすくする工夫も有効です。手作業と組み合わせることで、細やかなチェックが必要なデータも的確にクリーニングできます。
データクレンジングで使えるExcel関数
一般的にデータクレンジングには専用のツールが使用されますが、データ量が少ない場合や人の目によるチェック作業の割合が多い場合は、汎用性が高く使いやすいExcelを使用するケースもあります。以下にデータ整理や名寄せを効率的に行うことができるExcel関数をご紹介します。
COUNTIF:データの重複を発見する
クレンジング作業での重複チェックは、条件に合うデータの個数を指定した範囲から検索して表示するCOUNTIF関数が便利です。企業名や個人名の重複を削除するにはExcelの「重複の削除」機能もありますが、これだと同一社名だが異なる企業などの場合に対応が難しくなります。必ずCOUNTIF関数で該当データを目視でチェックするようにしましょう。
DATEDIF:期間を求める関数
取引年数や会員期間など時間を求めたい場合はDATEDIF関数が便利です。指定した開始日と終了日の期間(年数、月数、日数など)を表示してくれる関数で、営業戦略やマーケティング用のデータ整理の際に、取引年数や会員期間などを調べたい場合などに使うことができます。
VLOOKUP:特定データから対応する値を見つける
指定した範囲のなかから対応する値を抽出するVLOOKUP関数は、特に手作業で項目を一つひとつ修正する場面で役立ちます。顧客コードから企業名や担当者名を抽出する、商品名から原材料名や価格を抽出するなど、大量のデータを効率的に処理する際に便利です。
TRIM:不要なスペースを削除する
指定したセル内で文字列の間にあるスペースだけを残し、他のスペースを削除してくれます。個人名の整理を行う場合に、姓と名の間のスペースだけを残してそれ以外のスペースを削除したい場合などに便利です。
CLEAN:不要な改行を削除する
指定したセル内の文字列のなかにある改行を削除して表示してくれます。顧客情報に関するメモやアンケートの回答など、自由記入形式の項目を整理する際に便利な関数です。
データの有効活用のために
クレンジング後のデータが活きるように、継続的な管理と改善が求められます。
データクレンジングは、ビジネスにおける意思決定や顧客理解の基盤を支える重要な取り組みです。クレンジングが終わってからが本当のスタートとも言え、清浄化されたデータを活かすための体制づくりが欠かせません。
効果的なルール作成と一貫性の維持
データ入力のガイドラインやマニュアルを整備し、システムや担当者間における不整合を最小限に抑えることが重要です。同時に、更新履歴をロギングしておけば、いつ・誰が・どのような修正を行ったのか追跡可能になるため、継続的な品質管理のベースを築けます。
この過程で現場の声を吸い上げ、運用上の課題を早期に改善する仕組みを回すことで、整合性を長期にわたって保ちやすくなります。
定期的な目視での確認
システムによる自動チェックだけでは発見が困難な細かなエラーもあり、データ活用の現場からのフィードバックを踏まえて修正することが大切です。特に重要データや外部から取り込んだ新規データは、目視確認を定期的に行うことで品質のバラつきを抑えられます。
こうした運用の積み重ねにより、企業全体で高品質なデータが蓄積され、分析力や顧客対応力の向上につながります。
まとめ
データクレンジングは、データベースの品質を向上させ、経営判断や営業戦略の立案などに役立てるためには欠かせないプロセスです。その上で、一度クレンジングを行うだけでなく、継続的に品質を管理し、問題が発生した際には速やかに対応していくことが重要です。
正確なデータを活用することで、今後の生成AIの活用をはじめ、新たなビジネスチャンスの発見や、顧客満足度の向上など、多方面で有益な成果を得ることが期待できます。
ビジネスの成長や強化のために、ぜひデータクレンジングに取り組んでみてはいかがでしょうか?
執筆者プロフィール

小川 優美
- ・所 属:マーケティング部
- 広告代理店での2年間のコピーライター経験を経て、その後はIT業界一筋。B2CからB2B、日系ベンチャーから大手外資系まで、さまざまな企業での経験が強み。広報、ブランディング、プロダクトマーケティング、キャンペーンマネージャーなど、一貫してマーケティングにまつわるさまざまな業務に従事し、2024年5月より現職。プライベートでは、自然と触れ合うこと、温泉&銭湯が大好き。
- (所属は掲載時のものです)
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