Microsoft Entra ID連携を徹底解説
Microsoft Entra IDは、クラウドとオンプレミス環境をシームレスに統合するためのアイデンティティ管理サービスとして幅広い企業から注目を集めています。企業の情報資産を安全に守りながら効率的な運用を実現するためには、既存のActive Directoryとの連携や認証方式の理解が欠かせません。
そこで本記事では、Microsoft Entra IDの概要から導入手順、運用上のポイントまでをわかりやすく解説していきます。
yoko tsushima
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Microsoft Entra IDとは?Azure ADからの名称変更について
Microsoft Entra IDは、Azure ADから名称が変更され、新たな機能や強化されたセキュリティを備えた統合的なID管理サービスです。
以前はAzure Active Directory(Azure AD)として提供されていたサービスが、Microsoft Entraのラインナップに統合される形で名称が変わりました。名称変更によりユーザーインターフェースが分かりやすくなっただけでなく、新たな画面構成や拡張されたコンプライアンス機能が追加されています。クラウド環境とオンプレミス環境を一元管理するうえで、より使いやすいサービスへと進化しています。
名称変更に伴い、管理者向けポータルや認証方式に関する設定項目も少しずつリニューアルされています。すでにAzure ADを利用している企業は、既存のディレクトリ同期や認証の設定をそのまま維持しながら、追加機能を活用可能です。こうした柔軟性の高さも、Microsoft Entra IDの大きな魅力となっています。
Microsoft Entra IDで追加・強化された機能
Microsoft Entra IDにリブランディングされてからは、より高度な多要素認証や条件付きアクセスが強化され、セキュリティ面での選択肢が増えました。また、管理ポータルのUIが刷新され、ポリシー設定やライセンスの割り当てが直感的に行いやすくなっています。さらに、運用監視機能も充実し、ログを活用したアラート設定やリスクベースのアクセス制御など、セキュアな運用をサポートする機能が続々と追加されています。
Active DirectoryとMicrosoft Entra IDの違い
Microsoft Entra IDはクラウド志向のサービスで、従来のActive Directoryと運用設計や機能の面で大きな差異があります。
オンプレミス版のActive Directoryはドメインコントローラーをベースにしたディレクトリサービスであり、社内ネットワークやWindows環境での認証を中心に設計されています。一方、Microsoft Entra IDはクラウドを前提とした設計であり、インターネット越しでのアクセシビリティに優れ、複数のSaaSやWebアプリケーションとの連携がスムーズです。ハイブリッド環境を前提とする企業にとっては、両者を組み合わせる運用が現実的な選択肢となります。
特にMicrosoft Entra IDは、ユーザーやグループ情報のクラウドへの同期、シングルサインオン(SSO)、アクセス制御ポリシーの適用など、モバイル環境やリモートワークに即した機能を幅広く提供している点が特徴です。一元管理によりユーザーエクスペリエンスを向上させるだけでなく、セキュリティレベルの統一化や簡易化した運用管理を実現します。オンプレミスのActive Directoryとの機能差を理解したうえで、必要に応じてハイブリッド構成や完全クラウド移行を選択するとよいでしょう。
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⇒ シングルサインオン(SSO:Single Sign On) |用語集
ディレクトリ管理や認証方式の違い
オンプレミスのActive Directoryでは、ドメインに参加したクライアントを中心としたWindows主体の運用が基本となります。一方のMicrosoft Entra IDでは、OAuthやOpenID Connect、SAMLなど、さまざまなプロトコルをサポートし、クラウドベースの認証を柔軟に行うことが可能です。複数の環境やデバイスをまたいで統合管理したい場合、Microsoft Entra IDの幅広いプロトコル対応がとても有用となります。
オンプレミス環境での連携上の注意点
ハイブリッド構成を実現する際には、Azure AD Connectを用いたディレクトリ同期の正確な設定と、ネットワーク要件の確認が不可欠です。オンプレミスADとMicrosoft Entra ID間のユーザー情報の重複や同期タイミングのズレは、セキュリティリスクやログインエラーの原因になりやすいポイントといえます。また、VPNやファイアウォール設定などの通信要件を事前に把握し、円滑に連携を行えるよう設計を行うことが重要です。
Microsoft Entra IDの主な機能
Microsoft Entra IDは高度な認証やSSOなど、日々の運用に役立つ多彩な機能を提供します。
企業でよく利用されるOffice 365やその他SaaSサービスとのSSOを実現できるのは、Microsoft Entra IDの大きな特長の一つです。アプリケーションごとに異なる認証情報を管理していた場合、ユーザーの利便性とセキュリティの両面で課題がありましたが、Microsoft Entra IDを活用することで集中的に管理できます。さらに、多要素認証や条件付きアクセスを組み合わせることで、より高いセキュリティレベルを確保可能です。
オンプレミスアプリケーションと連携するためのアプリケーションプロキシ機能も備えており、サーバーレスで安全に社内アプリケーションへアクセスできるようになります。これにより、リモートワークが定着する現代の業務形態にも柔軟に対応しつつ、不正アクセスを最小限に抑えることができます。こうした統合的なID管理機能が、多様化するIT環境での生産性向上とセキュリティ確保に貢献します。
シングルサインオン(SSO)とSAML認証
SSOは、多数のアプリケーションを利用する企業にとってユーザーのパスワード管理を簡便化し、ログインの手間を省くメリットがあります。SAML認証を利用することで、オンプレミスやクラウドを問わず一貫した認証体験を提供できる点も魅力です。これらを活用することで、アプリケーションごとに資格情報を入力する手間がなくなり、管理者側のサポート負荷も大幅に軽減されます。
MFA(多要素認証)と条件付きアクセス
MFAの導入によって、パスワード漏えいや不正ログインのリスクを大きく低減できます。Microsoft Entra IDでは、条件付きアクセスと組み合わせることで、アクセス元のデバイスやネットワーク、ユーザーの状況に応じた認証強度を柔軟に設定できます。これにより、利便性とセキュリティをバランスよく両立しながら、厳格なアクセス制御を実施できるようになります。
アプリケーション プロキシによるオンプレミス連携
アプリケーションプロキシは、オンプレミス環境のWebアプリケーションを直接クラウドに公開することなく、セキュアに外部からアクセスできるようにする機能です。エージェントをオンプレミス側に配置し、HTTPSトンネルを介して通信するため、VPNの設定が不要もしくは最小限ですみます。クラウドとオンプレミスのハイブリッド環境において、安全にリソースを公開する際に非常に有用な手段といえるでしょう。
Microsoft Entra IDの導入メリット
導入コストや運用の柔軟性、さらにはセキュリティ強化など、Microsoft Entra IDを導入する恩恵は多岐にわたります。
クラウドベースのサービスを利用することで、オンプレミスのハードウェア管理やメンテナンスコストを削減できるのが大きな強みです。また、Azure AD Connectなどを利用することで、既存のActive Directory環境を活かしながら徐々にクラウドへ移行するハイブリッドアプローチが可能です。これにより、導入初期費用を抑えつつ、必要な機能だけを段階的に取り入れる柔軟な運用形態が実現します。
セキュリティの観点では、多要素認証や条件付きアクセスといった機能によって不正アクセスのリスクを下げられます。さらに、一元管理の仕組みを整えることで、IDの変更や権限付与・剥奪が容易になり、セキュリティポリシーの徹底が可能です。これらの施策が業務効率化にも寄与し、企業全体のコストパフォーマンスを高める要因となるでしょう。
コスト面・運用面でのメリット
クラウド基盤を活用することで、サーバー管理などの運用負荷を大幅に軽減できます。また、ライセンス管理が集約されるため、追加ユーザーの導入やエディション変更などの運用もスムーズです。必要な分だけを利用するサブスクリプションモデルなので、IT予算を最適に配分できる点も大きなメリットといえます。
セキュリティ強化と業務効率化
多要素認証や条件付きアクセスを導入することで、不正ログインを含むサイバーリスクを大幅に低減できます。権限管理が中央集約化されるため、ユーザー追加・削除を一元的に行え、システム運用の効率も大きく向上します。これらの取り組みによってセキュリティレベルが安定し、現場の運用もスムーズに進められるようになるでしょう。
オンプレミスADからMicrosoft Entra IDへの移行手順
オンプレミスのActive DirectoryからMicrosoft Entra IDへ移行する際は、ハイブリッド構成の構築やポリシーの移行手順など事前準備が重要です。
オンプレミスADからMicrosoft Entra IDへの移行は、まず現在運用中のAD環境をしっかりと評価し、ユーザー数やグループ構成、アクセス要件などを洗い出すところから始まります。それらの情報をもとに、ハイブリッド運用と完全クラウド運用のどちらが適しているのかを検討するとスムーズです。また、移行時に必要となるライセンスやネットワーク設定の見直しを同時に実施し、無理のないスケジュールで計画を進めましょう。
移行後は、ディレクトリ同期の状態やポリシーの適用範囲を定期的にモニタリングし、問題点を早期に発見する体制を構築することが大切です。特に多要素認証や条件付きアクセスなどの強化機能を導入するときは、ユーザーの利便性も考慮しながら段階的にローンチすると混乱を防げます。継続的な運用改善を視野に入れ、セキュリティレベルを段階的に高めていくことが望ましいでしょう。
Step1:ハイブリッド構成の準備
最初に、Azure AD Connectなどのツールを用意し、オンプレミスADとMicrosoft Entra IDの統合に必要な環境を整えます。ドメインコントローラーの構成や名前解決の設定が正しくされているか、DNSの動作を含めて入念に確認することが重要です。また、ネットワークセキュリティの観点から、Azureへのアクセス経路やファイアウォール設定を確認し、トラフィックの疎通を確保しておきましょう。
Step2:アプリケーション移行とディレクトリ同期の設定
導入したAzure AD Connectでディレクトリ同期を有効化し、オンプレミスのユーザーやグループ情報をMicrosoft Entra IDに連携していきます。必要に応じて、クラウドへの切り替えに伴うアプリケーションの登録やフェデレーション設定を行い、アクセス制御の仕組みを再構築します。同期が完了したら、サインオンテストを行い、ユーザーが問題なくクラウド側で認証されるかを確認しましょう。
Step3:ポリシー設定とセキュリティ強化
移行後は、条件付きアクセスやMFA設定を検討し、リスクベースのアクセス制御を導入することでセキュリティをさらに高められます。特定のアプリケーションのみ多要素認証を必須とするなど、柔軟なポリシーを設定することで業務効率を保ちながら安全性を確保できます。定期的にアクティビティレポートを確認し、異常があれば速やかに対策を打てる体制づくりも重要です。
Microsoft Entra ID連携の具体的な設定手順
実際にMicrosoft Entra IDとアプリケーションを連携する際に必要となる登録作業やグループ設定などを紹介します。
さまざまなSaaSや社内アプリを一元管理するためには、Microsoft Entra ID上でアプリケーションを正しく登録することが出発点となります。ユーザーアカウントや権限を個別に設定するのではなく、グループ管理を活用することで効率的に運用できます。さらに、SAML連携などを設定することで、よりセキュアで利便性の高い認証環境の構築が可能です。
万一のトラブルに備え、フェデレーションメタデータの整合性や認証証明書の有効期限などを定期的にチェックすることが重要です。実際の運用においては、ユーザー側の接続エラーへの対応やポリシー設定の更新作業が継続的に発生します。そういった場面でも、早期発見と迅速な対処ができるよう、管理者は運用監視の機能やログを活用して連携状況を常に把握しておく必要があります。
アプリケーションの登録と識別子の設定
アプリケーションをMicrosoft Entra IDに登録することで、オブジェクトIDやアプリケーションIDなどの識別情報が割り当てられ、連携の管理が容易になります。登録手順としては、管理ポータルから新規アプリケーションを追加し、リダイレクトURIやサインオンURLなどの設定を行います。これらの項目を正しく登録することで、SSOやトークン発行がスムーズに行えるようになります。
グループとユーザー権限の付与方法
大規模な組織では、ユーザー権限を個別に管理すると作業負荷が増大します。そこで、グループを活用してロールを割り当てることで、自動的にメンバーへ権限を付与でき、管理が効率化します。ユーザーが異動や退職する際も、グループから外すだけで一括解除が可能となり、セキュリティ的なリスクを抑えることができます。
SAML連携に必要なフェデレーションメタデータの確認
SAMLを利用する場合、IdP(Identity Provider)のフェデレーションメタデータをダウンロードし、SP(Service Provider)側でインポートする作業が必要です。メタデータ内の証明書やエンドポイント情報が正しいかをチェックし、適切な期限管理を行うことで認証エラーを防げます。更新時期が近づいたら自動的に通知されるように設定すれば、運用負荷を大幅に軽減できるでしょう。
トラブルシューティングのポイント
フェデレーションや認証情報の不整合が発生した場合、まずはMicrosoft Entra IDポータル上のサインインログを確認し、エラーコードを解析するのが第一歩です。構成ミスや証明書の有効期限切れなど、原因は多岐にわたりますが、ログやメッセージを手がかりに対応策を講じられます。継続的に監視する仕組みを整えつつ、定期的な動作テストやフェイルオーバー準備を行うことで、トラブルを未然に防ぐことができるでしょう。
HULFT SquareでのMicrosoft Entra ID連携
セゾンテクノロジーが提供するiPaaS「HULFT Square」では、Microsoft Entra IDとの連携を組み込んだデータフローを構築でき、ユーザー管理やセキュリティイベントのモニタリング、業務系アプリケーションとのデータ連携といった処理を、効率的に開発・運用し自動化します。
また、HULFT Squareは、Microsoft Entra ID連携をアプリケーションとして提供しています。アプリケーションとは、あらかじめ作成されたデータ連携スクリプトを再利用しやすいパッケージとして提供している機能です。アプリケーションからコピーしたスクリプトをカスタイマイズし、接続検証の短縮やフロー作成を簡易化します。
パーツを組み立てるように、サクサク開発
HULFT Square アプリケーション
アプリケーションを使えば、コードをイチから作成することなく、まるでパーツを組み立てるようにユニークな機能の作成に集中できます。
まとめ
企業のクラウド活用が進む中、Microsoft Entra ID連携はセキュリティと利便性の両立を図る要となります。メリットや設定のポイントを押さえ、効率的に導入を進めましょう。
Microsoft Entra IDは、従来のActive Directoryにはないクラウドならではの拡張性と利便性をもたらし、強固なセキュリティ要件にも柔軟に対応できるサービスです。Azure AD Connectを用いたディレクトリ同期やアプリケーションプロキシ機能を活用することで、オンプレミス環境とクラウドサービスをシームレスに統合できます。エディション選択やポリシー設定を的確に行うことで、運用コストの削減とセキュリティレベルの向上を同時に実現できるでしょう。
執筆者プロフィール

對馬 陽子
- ・所 属:マーケティング部
- アプレッソ(現:セゾンテクノロジー)入社後、テクニカルセールスとして技術営業や研修、技術イベントなどを担当。Uターンのため退職したのち、2023年4月に遠隔地勤務制度で再入社。プロダクト企画部での経験を経て、現在はマーケティング部でデジタルコンテンツ作成を担当している。
- (所属は掲載時のものです)
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