データ活用コラム

RAG(検索拡張生成)とは?
生成AIの新しいアプローチを解説

RAG(Retriever-Augmented Generation)は、「ラグ」と呼ばれる現代の生成AI技術に革新をもたらす新しいアプローチです。従来の生成AIは、学習データに基づいて文章や画像を生成する能力がありますが、学習していないことに対する回答には、その精度や信頼性に課題がありました。

RAGは、大規模なデータセットから関連情報を取得し(Retriever)、その後に生成モデル(Generator)がその情報を元にテキストを生成します。これにより、従来より正確で精度の高い情報提供が可能になります。
この記事では、そんなRAGの詳細について解説していきます。

RAG

生成AI

Yumi Ogawa - 読み終わるまで 7分

生成AIにおけるRAGの位置づけと目的

RAGの定義と歴史

RAG(Retriever-Augmented Generation)は、事前にモデルが持っている知識に加えて、外部のデータベースからリアルタイムで情報を取得し、生成されたテキストに反映させることで、より高い精度と最新の情報を反映したを内容を提供できるようにします。

RAGの歴史は、生成AIと情報検索技術の進化と共に発展してきました。特に、近年の計算力の進化や大規模データセットの利用が可能になったことで、RAGの性能が大幅に向上しました。RAGは、生成AIモデルが持つ内部知識に新たな情報を融合させることで、特定の分野に対する専門的な質問への応答やエンジニアリングの問題解決など、多岐にわたる応用が期待されています。

例えば、ビジネスにおいて生成AIで生産性を高めたいと考えた時、自社に蓄積された社内情報や外部の最新情報をも取り込むことができれば、誤った情報や誤解を招く内容を排除し、より精度が高い、すぐに使える情報として生成されたアウトプットを活用できるようになります。

生成AIの信頼性を高める鍵:RAGの役割

RAG(Retriever-Augmented Generation)は生成AIモデルにおいて、データの精度と信頼性を高める重要な役割を担っています。生成AIは大量のデータを基にコンテンツを生成しますが、そのデータ元の信頼性が低いと、アウトプットの質にも大きく影響します。

生成AIの信頼性向上のためには、RAGの導入と適切な運用が求められます。RAGは、生成AIモデルに付与されるクエリに基づいて、高精度なデータを検索・取得し、これを基にコンテンツを生成します。このプロセスは、生成AIのアウトプットの品質を大幅に向上させ、より有用で正確な情報提供を可能にします。

また、生成AIが事実に基づかない回答を生成し、もっともらしい嘘をつく“ハルシネーション”を低減させることにもつながります。
したがって、生成AIを用いるシステムにおいてRAGの重要性は非常に高いと言えます。

RAGと他の生成AI技術の比較

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この章では、RAGが他の生成AI技術とどのように異なり、どのような優位性を持っているのかを詳しく比較していきます。まずは、RAGと最もよく知られた生成AI技術であるGPTとを比較し、その違いと共通点について解説していきます。次に、RAGと一般的なAIモデルとの比較を行い、それぞれの技術の特長や応用分野について考察します。

RAGとGPTの違い

GPT(Generative Pre-trained Transformer) は、事前に大量のテキストデータを用いてトレーニングされ、入力に対して最も適切な応答を生成するモデルです。トレーニング時点までのデータが基盤となり、トレーニング時点までの情報の範囲内でした回答することができません。

RAG(Retrieval-Augmented Generation) は、GPTの生成能力に情報検索機能を統合したものです。外部データベースやリアルタイム検索を活用し、最新の情報を基に応答を生成できます。このため、GPTの「知識の更新が難しい」という課題を克服しつつ、生成内容の根拠を示すことが可能です。

比較項目 GPT RAG
知識の更新 トレーニング時点の知識が基盤。新しい情報を学習するには再トレーニングが必要。 外部検索を通じて最新情報を取り込めるため、知識の更新が容易。
情報の信頼性 応答の根拠を直接示すことが難しい。 外部データの出典を明示可能で、応答の裏付けを提供できる。
応答の内容 主にトレーニングデータに基づいた一般的・体系的な回答を生成。 検索結果を反映し、特定の文脈や状況に即した回答を生成。
検索機能の有無 内部データのみを利用。検索機能なし。 外部データベースやインターネット検索を活用して応答を生成。
利用シーン 質問応答、文章生成、要約、翻訳など幅広い自然言語処理タスク。 最新情報を含む応答が必要な場面(FAQ、自動レポート作成、リアルタイム分析)。
計算リソース トレーニング時に大規模な計算リソースを使用するが、推論時は効率的。 外部検索を伴うため、応答速度が検索システムの性能に依存。
応答の適応性 与えられたプロンプトのみに基づき応答を生成。 外部情報と生成モデルを組み合わせ、柔軟に応答内容を適応可能。


このように、RAGはリアルタイム性に最新の情報を取得できる点において、GPTよりも柔軟で適応性が高い技術です。特に、顧客サポートやニュースの自動生成、医療や金融分野での高度なデータ分析が求められる場面などで、その真価を発揮します。RAGの導入によって、企業や組織はより迅速で正確な情報提供が可能となり、競争力を高めることができます。

RAGと一般的なAIモデルの比較

RAG(Retriever-Generator)が一般的なAIモデルと比較して優れている点は、その高精度な情報生成とデータ取得能力にあります。

一般的なAIモデルは、主に事前にトレーニングされたデータに基づいて試行錯誤的に情報を生成しますが、この手法にはいくつかの限界があります。例えば、特定のトピックについて最新情報が頻繁に変わる場合、事前にトレーニングされたモデルではその最新情報を取り込むことは困難です。

一方、RAGはRetriever(情報取得)とGenerator(生成)の二つの要素を統合しているため、より効果的にデータを取得し、そのデータを基に正確な情報を生成することが可能です。Retrieverはリアルタイムで最新のデータにアクセスし、必要な情報を効率的に抽出します。その後、Generatorがその取得データを基に情報を生成するため、従来のAIモデルと比較して高精度な情報生成が可能です。

AIアプローチ 概要 手法 メリット デメリット 応用例
教師あり学習 正解付きデータを用いてパターンを学習する 回帰(線形回帰、多項式回帰)、分類 - 学習精度が高い
- 学習速度が速い
- 正解データが必要
- データの質に依存する
予測モデル(金融、気象)、メールスパム判定、画像認識
教師なし学習 正解なしのデータから共通点や法則性を見つけ出す クラスタリング、アソシエーション分析 - 正解データ不要
- データ内の未知の法則を発見可能
- 発見された法則の正確性に人間の検証が必要
- 解釈が難しい場合がある
市場セグメンテーション、商品推薦(購買パターン分析)、画像分類
強化学習 試行錯誤を繰り返しながら最適解を探索 報酬ベースの学習(トライアンドエラー) - 最適化問題への適用が可能
- 人間を超える速度で試行錯誤できる
- 計算コストが高い
- 設計が複雑
自動運転、ロボット制御、ゲームAI(囲碁、将棋)、掃除ロボット
LLM
(大規模言語モデル)
大量のテキストデータをディープラーニングで学習し、自然言語処理を実現 トランスフォーマーベースのディープラーニング - 大量データから高度な言語理解を実現
- 多様なタスク(質問応答、要約、翻訳)への適応可能
- 訓練に膨大なデータと計算リソースが必要
- バイアスや倫理的問題を含むリスク
ChatGPT、翻訳ツール、文章生成(コピーライティング、自動要約)、感情分析
RAG
(検索拡張生成)
外部データベースや検索システムと統合し、生成する応答に最新情報を取り入れる 検索
(Retrieval)+ 大規模言語モデル(LLM)の統合
- 最新情報や外部データを活用可能
- モデルの知識更新が容易
- 応答の根拠を示すことが可能
- 外部データの質に依存
- 応答速度が検索に依存する
- 外部データの選定が精度に影響
FAQシステム、カスタマーサポート、データドリブンな生成(レポート作成、リアルタイム分析)


RAGの独自のデータ取得と生成機能により、他のAIモデルよりも効果的なソリューションが提供できる点が大きな強みです。特に、膨大なデータベースやリアルタイムの情報が求められる状況において、その真価を発揮します。RAGは情報取得と生成の強力なハイブリッドシステムとして、さまざまな分野での応用が期待されています。

RAGの応用例

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RAG(Retriever-Augmented Generation)は、幅広い応用分野でその可能性を証明してきました。その多様な用途は、企業や組織にとって大きな価値をもたらします。では、具体的にRAGがどのように各分野で応用されているのかを見ていきましょう。

顧客サポートでの活用

RAGは顧客サポートの分野で大いに役立ちます。
例えば、RAGを用いたカスタマーサポートシステムは、FAQの自動応答やより複雑な問題への対応が可能です。特定のクエリに対して事前に定義された回答を提供するだけでなく、実際に顧客が直面している課題に対する理解を深め、適切な解決策を提示できます。これにより、顧客が必要とする情報を迅速に提供し、問題解決の満足度を高めることができます。

RAGを導入することで、人間のオペレーターが対応する必要がある案件を大幅に減少させることができ、リソースの最適化が図れます。例えば、RAGが日常的な問い合わせに対して適切な回答を行うことで、コールセンターのオペレーターがより複雑な問題や専門的な対応が必要なケースに集中できるようになります。これにより、サポートの効率が向上し、全体の運用コストも削減されます。

さらに、過去の問い合わせ履歴や顧客の行動データを元に学習を進めることで、よりパーソナライズされた対応が可能となります。

医療と金融業界での応用

RAG技術は、医療と金融業界での多岐にわたる応用が可能です。これは主にRAG技術が高度な情報取得と生成能力を持っており、正確性と効率性が求められるこれらの業界に最適だからです。

例えば、医療分野では患者の診断結果の分析と迅速な治療計画の立案に利用されます。具体的にはRAGを用いて大量の医学論文や診療データから関連情報を抽出し、診断精度を向上させたり、個別の患者に適した治療法を迅速に選定することが可能です。

金融分野においても、RAG技術はマーケットデータの分析やリスク管理に大きな効果を発揮します。例えば、リアルタイムでの株価動向の分析や市場予測、リスクアセスメントなどにRAGを活用すれば、投資戦略の策定やリスク回避にも大いに役立ちます。

また、金融レポートの自動生成やクレジットリスクの評価など、多岐にわたる業務を効率化することも期待できます。

RAGの利点と課題

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RAG(Retriever-Augmented Generation)は、生成AIの分野で多くの期待と関心を集めています。しかし、この技術には多くの利点がある一方で、克服すべき課題も存在します。本セクションでは、RAGの利点と課題について詳しく解説します。RAGの大きな利点は、高精度なデータ生成とコスト削減、そして高度なパーソナライズの可能性です。しかし、データのバイアス問題や理解の複雑さといった課題も存在します。これらのポイントについて、それぞれ具体例を交えて考察していきます。

生成AIにおけるRAGの利点

まず、RAGは高精度なデータを生成しつつ、コスト削減を実現できる点が大きな利点です。
その背景には、情報の効率的な取得と生成にあります。RAGは特に生成AIモデルにおいて、必要な情報を迅速かつ正確に収集し、その内容を基に有用なデータを生成する能力に優れています。
従来の方法では、多くの時間とリソースを要していた情報検索やデータ生成のプロセスが、RAGでは大幅に効率化されます。
企業がRAGを導入することで、さまざまな分野でのデータ処理効率が向上し、リソースの最適な運用が可能となります。

課題と克服方法

万能に見えるRAGですが、課題もあります。
まずRAGを活用する際には、データのバイアス問題に注意する必要があります。生成AIはトレーニングデータに依存しており、偏ったデータを基にしたモデルは偏った結果を生成する可能性が高いからです。例えば、特定の地域や文化に基づくデータばかりを収集した場合、その地域や文化とは異なるバックグラウンドを持つユーザーに対して不適切な結果を導き出すことがあります。データのバイアス問題を克服するためには、多様なデータセットを利用し、多方面からのチェックと評価を行うことが重要です。

また、RAGの理解とその活用方法には高度な専門知識が必要です。RAGは情報取得と生成のプロセスが複雑であり、相互のインタラクションを深く理解する必要があります。
例えば、情報取得(Retriever)の精度が低ければ、その後の生成(Generator)プロセスで高品質なデータが得られない可能性があり、システム全体のパフォーマンスに大きな影響を及ぼします。効果的なRAGの活用には、技術的な理解を深め、継続的な学習とテストを行いながら運用することが求められます。

今後のRAGの展望とまとめ

RAGは生成AI分野における革新的アプローチとして、今後も注目を集めるでしょう。高精度なデータ生成とコスト削減という利点を活かし、様々な業界での幅広い応用が期待されます。
今後、RAG技術の更なる進化と実用化が進む中で、バイアス問題の克服やデータの管理整備といった課題解決にも重点が置かれるでしょう。
バイアス問題については、多様なトレーニングデータの使用と定期的な評価が重要となり、データ管理整備においてはセキュリティ対策と透明性の確保が欠かせません。
このような対策を講じることで、RAG技術はさらに信頼性を高め、多くの分野での実用化が実現するでしょう。

執筆者プロフィール

小川 優美

  • ・所 属:マーケティング部
  • 広告代理店での2年間のコピーライター経験を経て、その後はIT業界一筋。B2CからB2B、日系ベンチャーから大手外資系まで、さまざまな企業での経験が強み。広報、ブランディング、プロダクトマーケティング、キャンペーンマネージャーなど、一貫してマーケティングにまつわるさまざまな業務に従事し、2024年5月より現職。プライベートでは、自然と触れ合うこと、温泉&銭湯が大好き。
  • (所属は掲載時のものです)

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