SX時代におけるサステナビリティ経営と非財務データ活用の重要性
近年、サステナビリティへの取り組みが企業経営において不可欠となり、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)という概念が注目を集めています。企業が長期的に価値創造を続けるためには、環境保全や社会課題の解決に真正面から取り組むことが求められ、従来の財務指標だけでは評価しきれない要素が増えています。
とりわけ、非財務情報の活用は、企業価値向上や従業員エンゲージメント強化の面で大きな意味を持ちます。投資家や消費者など多様なステークホルダーは、企業の取り組み姿勢をより総合的に評価するようになっており、非財務情報の開示や活用が経営戦略として重要なテーマとなっています。
Shinnosuke Yamamoto -読み終わるまで8分

サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の概要
SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、環境、社会、ガバナンスなど幅広い領域で企業活動を見直し、持続可能性を経営の中心に据える変革を指します。多くの企業がESG(環境・社会・ガバナンス)指標を重視した経営に取り組む流れが加速しており、従来の財務指標だけでは捕捉できなかった企業の社会的価値やリスクが、経営の成否に直結する時代へ移行しています。
こうした背景には、欧州連合での企業サステナビリティ報告指令(CSRD)など、非財務情報を財務情報と同等に扱う法規制が整備され始めたことも大きく影響しています。企業は生産性のみならず、環境への配慮や社会課題の解決方法について明示的な責任を求められます。このように、SXは長期的な企業価値の向上と社会貢献を両立させるためのアプローチとして、急速に注目を集めています。
DX・GXとの違い
SXに似た言葉として、DXやGXが挙げられます。
DX(デジタル・トランスフォーメーション)は情報技術の活用による業務やビジネスモデルの改革を指します。サステナビリティの分脈では、DXはSXの実行戦略としての手段のひとつとして位置づけられます。
GX(グリーン・トランスフォーメーション)は脱炭素社会実現のためのグリーン化施策を指します。一方、SXは環境だけでなく社会やガバナンス領域も含め、企業や社会全体における持続的な成長と課題解決を目指す幅広い概念です。つまりSXはGXを包含し、新たな価値創造と社会変革をトータルに捉える枠組みと考えることができます。
SXを加速する鍵は非財務情報にあり
SXを推進するには、売上や利益といった財務指標だけでなく、企業活動の質的要素を示す非財務情報が重要となります。
非財務情報とは、人的資本、組織文化、顧客ロイヤルティなど、数値化が難しい要素を含む情報を指します。企業に対する評価が多面的になるにつれ、単に収益や資産評価だけでなく、社会的課題へどれほど真摯に向き合っているかが問われるようになりました。こうした非財務情報を適切に管理し、活用することで、企業の実態をより正確に把握できると同時に、ステークホルダーとの建設的なコミュニケーションを可能にします。
また、これらの情報は財務データと補完関係にあるため、両者を総合的に分析することが真の企業価値を測る近道となります。非財務情報は企業文化やリスク要因などに直結し、長期的な企業活動の方向性を左右する重要な指標ともいえます。財務と非財務の両面を理解することで、サステナビリティ経営の全体像がはっきりと見え、組織的な行動変革を起こす際の根拠ともなります。
非財務情報とは?財務情報との違い
財務情報は主に決算書類や売上高、利益率といった数値データに焦点が置かれますが、非財務情報は企業が生み出す社会的インパクトやビジョンを評価する要素が含まれます。例えば、環境省が推進するGHG(温室効果ガス)排出量の報告や、従業員満足度調査の結果、地域社会への貢献度などは定量化しづらい部分が多いです。しかし、ステークホルダーは企業をより包括的に評価したいと考えているため、非財務情報は財務面を補完する新たな価値基準として意味を増しています。
サステナビリティの実行戦略としてのKPIの策定
非財務情報を有効に活用するには、定量化可能な指標を設定してモニタリングする仕組みが大切です。具体的には、温室効果ガス排出量の削減目標や従業員の離職率、人材育成の進捗などをKPIとして設定し、計画的にリソースを配分します。これにより、経営者や従業員が同じ目標に向かって行動しやすくなり、サステナビリティの取り組みを着実に前進させることができます。
非財務情報の統合管理と実現例
企業全体で非財務データを整備・管理し、具体的な施策を通じてSXを実現するための方法を見ていきます。
企業がサステナビリティ経営を加速させるには、非財務情報を収集・分析・活用するプロセスが欠かせません。例えば、ESG指標と財務指標を同時に把握し、関連部門が連携してPDCAを回せる体制を整備することで、新たな社会的価値の創出が可能になります。具体的な取り組みには、気候変動リスクへの対応やステークホルダーとの共創プロジェクトなどが含まれ、これらの成果は企業理念をより強固にするだけでなく、企業ブランドの向上や投資家からの評価向上にもつながります。
また、統合管理の仕組みを構築することで、企業内に散在する情報の重複や欠落を最小化し、迅速な意思決定が行いやすくなります。非財務情報は部門横断的な視点を必要とするため、単独の部署だけでなく、経営層やIT部門、サプライチェーン全般にわたる関係者が協働できる体制づくりが重要です。こうした統合管理こそが、SX時代の変革をスピードアップさせる核心的プロセスといえます。
KPIをモニタリングするためのデータ統合
非財務と財務指標を一元管理できる仕組みを整えれば、企業の経営状態を多角的に把握することが可能になります。例えば、ESGデータを管理するシステムと会計システムが連動していれば、投資効率と環境負荷の関連性などを即座に分析できるようになります。リアルタイムでKPIを監視し、結果に応じて適切な改善策を立案することが、持続的な企業価値の向上には不可欠です。
働き方やタレントマネジメントを含む人的資本の可視化
企業成長の基盤である人的資本を可視化することは、SX時代において非常に重要な取り組みです。例えば、従業員のモチベーションやエンゲージメント、スキルの成熟度を定量・定性の両面から捉え、実際の生産性や離職率と関連づけると、組織として取り組むべき優先課題が明確になります。これにより、社員がやりがいを感じながら働ける職場環境を作り出し、企業の持続的な成長と社会的評価の向上を並行して実現することが可能です。
Scope3(スコープ3)排出量算定を含むサプライチェーン全体の可視化
昨今の気候変動対策では、Scope3(自社以外のバリューチェーン上の温室効果ガス排出量)の算定が求められます。サプライチェーン全体のデータを可視化することで、どの工程に最も負荷がかかっているのかを正確に把握し、効果的な削減施策を打ち出すことができます。結果として、企業は取引先やステークホルダーとの協力を通じて、業界全体の持続可能性向上に寄与しながらレピュテーションを高めることができるでしょう。
SXを実現するためにあるべきデータ統合基盤とは
SXを支えるデータ基盤では、多種多様な情報を一貫性を持って管理・分析できる環境整備が求められます。
多岐にわたる情報を単一の基盤に統合することによって、企業は財務・非財務の両面から戦略的な意思決定を支援できます。ビジネス部門やIT部門、さらにはグループ会社や外部パートナーが参画しやすい形でプラットフォームを構築することが大切です。データのサイロ化を防ぎ、全社的なデータガバナンスを強化することで、サステナビリティと経営効率を同時に高める効果が期待できます。
欧州や日本を含む各国の規制要件にスピーディーに対応するためにも、データの整合性とセキュリティを保ちつつリアルタイムで活用できる環境が不可欠です。企業の規模や業態によって最適な方法は異なりますが、オンプレミス環境とクラウド環境を組み合わせるハイブリッド型や、外部のサプライヤー・グループ会社とのデータ連携を可能にする仕組みなど、多角的な検討が求められます。
利用可能なデータの特定
まずは自社やグループ内でどのようなデータが存在しているかを明確に洗い出し、SXの文脈で有益かどうかを判断します。加えて、取引先や業界団体からの情報、各国自治体や政府機関が公開しているオープンデータなども、サステナビリティ経営に有用なインサイトを得る手段となります。こうした多様なデータ源の存在を認識することで、分析や施策の幅を拡大し得るのです。
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▼オープンデータについてもっと詳しく知りたい
⇒ オープンデータ(open data) |用語集
社内のオンプレミス環境・クラウド環境のデータ
企業の基幹システムや人事管理システムなど、オンプレミスで運用される既存のデータもSXでは重要な情報源となります。一方、クラウドを使ったSaaSサービスなどは常に新しい機能を提供しており、迅速な分析に役立ちます。両方の環境を統合的に管理し、データの取り込みと活用をスムーズにする仕組みづくりが、SXの実行力強化につながります。
外部のグループ会社、取引先や提携先のデータ
サプライチェーン全体を通じた情報は、Scope3排出量の算定やリスク評価に欠かせません。グループ会社や取引先、提携先から提供される情報をどのように収集・標準化するかが、SXを深めるうえで大きな課題となります。相互にメリットを共有できる仕組みを作り、データを透明性高くやり取りできる関係を築くことで、SX全体の精度と実行速度が高まります。
公開されているオープンデータ
政府機関が公開している気象データや人口動態データ、業界団体がまとめた統計情報など、公的機関から得られるオープンデータは企業のサステナビリティ戦略を支える強力な材料となります。自社データと組み合わせることで、地域社会に対する影響や、将来の規制リスクをより具体的に検証できるようになります。適切なオープンデータの活用は、新たなビジネスモデルの創出やレジリエントな経営基盤の構築にも役立ちます。
データ収集/統合のための環境整備
多様なフォーマットのデータを正確に収集し、組織全体で使いやすい形に統合するプロセスがSX導入の重要なステップです。特に、データソースが分散していると整形作業に工数がかかりがちですが、データパイプラインを整備し自動化することで、大幅に効率化が可能となります。データを安全かつ統合的に扱う基盤があれば、非財務情報もリアルタイムにチェックし、意思決定に役立てやすくなります。
データの変換・加工
異なるシステムや取引先から集まったデータは形式がバラバラであることが多いため、共通の基準に合わせて正規化する必要があります。具体的には、単位の統一や時系列調整、メタデータの付与など、分析やレポーティングに適した形へ変換する作業が必要です。これらの工程を自動化・標準化することで人為的ミスを防ぎ、SXに関する情報活用を安定的に継続できるようになります。
データの蓄積・管理
データを保管する際は、データレイクやデータウェアハウスなどを活用してセキュアかつ大容量の環境を整備することが重要です。非財務情報は長期的なトレンドや傾向を把握するのに必要な場合が多いので、過去データをどのようにアーカイブしておくかも大きなポイントとなります。効率的なデータ蓄積・管理は機械学習や高度な統計分析の基盤を支える要となります。
データ・インターフェースの公開
蓄積したデータを必要な人が必要なタイミングで取り出せる環境を作るには、APIなどを通じたインターフェースの公開が有効です。オープンAPIを導入すれば、分析チームや関連会社が新しい視点でデータを組み合わせた分析を行いやすくなります。結果として、組織全体でのデータ活用レベルが向上し、SXの目的である社会課題の解決や新規事業の創出を後押しします。
データ分析のための環境整備
統合されたデータを活用して意思決定を行うためには、分析ツールや人材の育成も重要になります。部門ごとに異なる分析ニーズを踏まえながら、必要な可視化機能やレポート、自動化された予測モデルなどを導入していく必要があります。こうした分析基盤が整っていると、経営層から現場レベルまで含めた全社的なデータドリブン文化の醸成が進みます。
BI(ビジエンスインテリジェンス)
BIツールは、企業が持つデータをリアルタイムに可視化し、短時間で経営判断を行うための有力なソリューションです。ダッシュボード上で財務・非財務双方の指標を一覧できれば、経営トップから現場担当者まで一貫した認識で行動を進めることができます。迅速な意思決定は競合との差別化にも寄与し、SX推進のスピードアップに大きく貢献します。
AI/ML(機械学習)
AIや機械学習を活用することで、大量のデータからパターンや傾向を自動的に抽出し、将来予測やリスク分析を行いやすくなります。例えば、気候変動の影響を受ける事業セクターのリスクシミュレーションや、人的資本の中長期的なパフォーマンス予測など、応用範囲は幅広いです。これにより、先手を打った施策を展開し、サステナビリティ経営の価値をさらに高めることが可能となります。
基盤全体で考慮すべきこと
SXのためのデータ基盤を構築する際には、技術面のみならず運用体制やガバナンス面の考慮も不可欠です。新たなシステム導入にはコストやスキルセットの確保が必要であり、同時にデータの正確性や分析技術の妥当性を保つフレームワークも確立しなければなりません。最終的には、全社がデータを活用しやすい状態とすることで、組織文化としてのサステナビリティ意識を根付かせることを目指します。
内製での開発・運用が可能か?
データ基盤を内製化するか、外部ベンダーと連携するかは企業が抱えるリソースや技能に左右されます。内製であれば独自の要件を柔軟に反映しやすい反面、専門人材の育成やシステム保守などの負担が大きくなりがちです。一方で外部ベンダーを活用すれば、導入スピードや最新技術へのアクセスが得られるものの、自社仕様への適応度合いとのバランスを考慮する必要があります。
データや分析結果は一貫性があり信頼可能か?
多様なソースから集まるデータは整合性や重複に気を付ける必要があります。分析手法にもバイアスがないかを検証し、透明性の高いプロセスを実行することで、ステークホルダーが安心して活用できる情報が得られます。SXにおいては特に、非財務情報の信頼度が社会的評価に直結しやすいため、ダブルチェック体制を整えるなど、データ品質向上の仕組みを設けることが求められます。
データや分析結果は誰もが使える状態か?
貴重なデータや有益な分析結果を抱え込むだけでは、全社的なSXの推進には結びつきません。経営層だけでなく、現場担当者や各部門が容易にアクセスでき、必要に応じて意思決定に活用できる体制が肝要です。教育プログラムやユーザビリティを考慮したツール選定を行い、企業文化としてデータ活用が根付く環境づくりが求められます。
まとめ
SX時代には、非財務情報を含めた統合的なデータ活用が企業の持続的成長と社会的価値の向上に直結します。
サステナビリティ経営を支えるためのデータ活用は、もはや企業にとって“選択的な取り組み”ではありません。財務指標と非財務指標を組み合わせて評価することが当たり前になり、さらには欧州を中心とした法規制が厳格化する中、企業は社会的な責任を明確に示す必要に迫られています。そこでは、官民のオープンデータや取引先との連携を通じて得られる幅広い情報をスムーズに分析し、戦略的に活用できるかが大きな分岐点になるでしょう。
企業がSXを実践するためには、データ統合基盤の整備と組織全体でのデータリテラシー向上が不可欠です。統合された情報を基にKPIを設定し、実行と検証を続けることで、社会課題の解決と利益の創出を同時に実現できます。この持続可能な企業価値の獲得は、投資家や顧客の信頼を得るだけでなく、将来の不確実性に対するレジリエンスを高める効果も期待できます。
執筆者プロフィール

山本 進之介
- ・所 属:データインテグレーションコンサルティング部 Data & AI エバンジェリスト
- 入社後、データエンジニアとして大手製造業のお客様を中心にデータ基盤の設計・開発に従事。その後、データ連携の標準化や生成AI環境の導入に関する事業企画に携わる。2023年4月からはプリセールスとして、データ基盤に関わる提案およびサービス企画を行いながら、セミナーでの講演など、「データ×生成AI」領域のエバンジェリストとして活動。趣味は離島旅行と露天風呂巡り。
- (所属は掲載時のものです)
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