データ活用コラム

ITとOTの融合で実現する製造業の競争力強化
– 散在する情報を統合せよ!

IT(情報技術)とOT(オペレーション技術)を融合させた製造業DXは、生産効率の向上だけでなく、新たなビジネス価値の創出を可能にするため、多くの企業が取り組みを加速させています。
本記事では、ITとOTの融合によるスマートものづくり基盤を構築するためのポイントを解説していきます。「モノ」から「コト」への顧客ニーズ変化が進む中、大量の情報を的確に捉えて経営判断につなげることは競争力強化に直結します。しっかりと基盤を整えれば、これまで在庫管理や品質管理で抱えていた課題を一気に解決し、持続的な成長を支える礎を築けるでしょう。

データ連携

Seiji Hosomi - 読み終わるまで 7分

ITとOTの役割とその重要性

グローバルな競争が激化する中、顧客ニーズに対しても迅速に対応できる製造プロセスが求められています。日本の製造業がかつて持っていたものづくり力の強みを再び活かすためには、ITとOTのスムーズな統合が欠かせません。ITとOTを有機的に結び付け、人・設備・システムの連携を最大化することが企業にとっての生き残り戦略になっています。

ITとOTの定義と使われ方の違い

IT(Information Technology)は情報システムやデータベースの運用、クラウド環境でのサーバ管理などを担い、ビジネスの効率化やデータ利活用を推進する役割を持ちます。会社全体の売上や在庫計画などの情報を取りまとめ、ビッグデータやAI分析によって経営戦略を立てる基盤となります。

これに対し、OT(Operational Technology)は生産ラインの制御や設備の稼働管理といった現場レベルの運用技術を指します。機械制御やプログラマブルロジックコントローラ(PLC)を活用するなど、現場の動きを支える非常にリアルな技術領域です。

このように、ITとOTは扱うデータの種類や目的が異なるため、両者を融合させる際には中途半端な連携ではなく、相互の役割を深く理解してシステムや運用フローを設計することが大切です。

IT×OT融合がもたらすメリット

ITとOTを連携させると、リアルタイムに工場の生産状況を評価でき、現場の異常を早期にキャッチして対処できるようになります。さらに経営層や管理部門も現場のデータを活用しながら、コスト削減や品質向上に向けた的確な意思決定を行いやすくなるでしょう。

例えば、異常の予兆を検知した場合に、エンジニアが迅速に問題を特定・解決し、製品への影響を最小限に抑えることができます。また、サプライチェーン全般の情報を集約することで、需要の変動に柔軟に対応し、過剰在庫や無駄なリードタイムを削減する仕組みも整えられます。

こうしたメリットにより、ITとOTの融合は単に生産効率を高めるだけでなく、競合他社との差別化につなげる上でも積極的に取り組む意義が大きいといえます。

生産管理システムやエネルギー最適化への応用

ITとOTを連携することで、生産管理システムへのリアルタイムデータ入力が容易になり、計画と実績を常時比較できる仕組みが整います。これにより生産ラインのボトルネックを可視化し、ムダの削減やスムーズなスケジュール調整が可能となります。

同時に、工場内で稼働する設備の電力使用量などを追跡すれば、エネルギーの効果的な最適化も行いやすくなります。例えば、ラインが稼働していない時間帯の一部装置を自動的に停止させることで、消費電力を減らしコストを削減するといった手法が考えられます。

こうした生産性の向上と省エネの両立は、地球環境に配慮しながら事業を継続するうえでも欠かせない要素であり、グローバル競争で強い存在感を示すための必須戦略といえます。

品質向上と予兆保全を実現する仕組み

ITとOTのデータを組み合わせると、部品ごとの加工精度や機械の振動状況など、従来は把握しづらかった情報を蓄積・分析しやすくなります。これにより、不良発生の傾向を早期に捉えることが可能です。

故障の予兆を検知できれば、部品交換やメンテナンスをあらかじめ実施することで、急なライン停止や大量の不良品発生を未然に防げます。品質管理面でも、リアルタイム計測を行うことによって製品のばらつきを抑え、高水準の品質を保つことができます。

こうした予兆保全の仕組みを整えることで、メンテナンスコストや人的リソースを最適化できるだけでなく、安定した生産体制の構築という点でも大きな効果があります。

スマートものづくり基盤構築のポイント

データ連携の基盤を整えるうえでは、適切な技術選定と運用体制の整備が不可欠です。

製造業における特有の要件として、現場で扱うデータの種類が多岐にわたることが挙げられます。センサーやPLCからの稼体制働情報だけでなく、環境データや仕掛品のロット管理といった多様な情報を連携させることにより、より正確な分析と意思決定が実現します。

その一方で、データ量の増大に伴って処理速度やセキュリティへの要求が高まるため、基盤技術の選定は慎重に行わなければなりません。同時に、導入後の運用を明確にし、継続的な改善を前提とした組織作りを行うことが、長期的な活用効果を得るためのカギとなります。

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データ収集・可視化ソリューションの選定

センサーやPLCから正確なデータを収集し、リアルタイムに可視化するソリューションは、さまざまなベンダーが提供しています。まずは自社の製造工程に照らし合わせ、どのソリューションが最も効果的かを見極めることが大切です。

導入するツールが増えれば運用管理が複雑化する可能性もあるため、いかに統合的な管理画面を構築するかも検討ポイントになります。また、現場作業者が使いやすいUIであるかどうかも、データ活用を促す上で見逃せない要素です。

最終的には、データ収集から分析、レポート作成までをスムーズに行える一連のプロセスを確立し、企業全体の意思決定に活用できる環境づくりを目指します。

AI活用と高度な分析基盤の構築

ビッグデータや機械学習が進展している昨今、AIを活用して生産プロセスや設備故障の予兆を高精度に予測する取り組みが注目を集めています。例えば、画像解析技術を用いた外観検査の自動化や、異常検知アルゴリズムによる品質トラブルの早期察知などが実用化されています。

AIを活用するには、データの標準化やクレンジングといった前処理が欠かせません。また、モデルの学習やアップデートを定期的に実施し、環境の変化に柔軟に対応できる仕組みを整える必要があります。

高度な分析基盤を構築することで、単に予防保全を行うだけでなく、新たな製品開発やサービス提案のヒントを得ることも可能になります。これにより、製造現場だけでなく企業全体の付加価値を高める成果が期待できます。

ネットワーク保護とリスクマネジメント

IT×OT連携が進むことでネットワークの境界が曖昧になり、サイバー攻撃の標的が製造現場にも及ぶ危険性があります。ファイアウォールや侵入検知システム(IDS/IPS)の導入に加え、セグメントごとのネットワーク防御が重要となります。具体的には、業務端末が使うネットワークと設備制御用ネットワークを分割し、相互アクセスを制限する方法が効果的です。

障害発生時の対処手順を明確にしておくことも、被害の拡大を防ぐうえで大切です。システム停止が生じても迅速に復旧できる災害対策やバックアップ計画を用意しておけば、突発的な事故でも影響を最小限に抑えられます。

さらに、リスクマネジメントの一環として定期的なテストや演習を実施し、セキュリティ担当者と運用担当者が連携して課題を共有することで、いざというときの対応力を高められます。

OT領域を狙うサイバー攻撃への対処

近年、製造ラインを直接停止させるサイバー攻撃の事例が増えており、被害が生産スケジュールの遅延や品質低下につながるケースが報告されています。特に制御システムの脆弱性を突いた攻撃は、装置や人員の安全面にも深刻な影響を及ぼします。

これらを防ぐためには、定期的な脆弱性診断とソフトウェアパッチ適用を怠らないことが第一です。また、重要設備にはアクセス制限を厳格に設け、USBメモリなど外部デバイス経由の感染リスクも管理する必要があります。

問題発生時の被害を抑えるには、早期発見と初動対応が何よりも重要です。常にシステムログや稼働状況をモニタリングし、異常を検知したら迅速に対処できる運用フローを確立しておくことがセキュリティレベル向上の要となります。

IT×OT統合を成功させるためのステップ

新たな技術だけでなく、組織体制や導入プロセスを整えることで、データ連携の効果を最大化できます。

IT部門と現場部門の協調を軸に、普段からコミュニケーションやデータの共有を行う文化を育むことが最初のステップとなります。経営層が積極的に方針を示し、必要な予算やリソースを確保することで、組織全体の意思統一を図ることが可能です。

技術面の導入だけを急ぐのではなく、運用に携わる人材の教育やスキルアップにも注力する必要があります。最新のITに不慣れな現場オペレーターに対しては、分かりやすいトレーニングを提供するとスムーズに現場へ浸透しやすくなります。

最終的には、全社でIT×OTの連携に当事者意識を持ち、継続的な改善サイクルを回していくことが理想です。現場からの要望や改善提案を素早く取り入れ、システムや運用フローをアップデートし続ける文化が、真の競争優位をもたらします。

プロジェクト体制とガバナンスの構築

IT×OT統合プロジェクトでは、経営層のリーダーシップと現場の実務知識の両方が不可欠です。明確な責任分担とスケジュール管理を行い、統一した目標に向かって順序立てて進めるようにする必要があります。

ガバナンス体制としては、プロジェクトの進捗を定期的に確認し、リスクと課題を早期に把握する場を設けることが大切です。担当者間の情報共有を活発化し、意思決定の遅れを防ぐ仕組みを取り入れると良いでしょう。

また、経営層や現場リーダーが率先して成功事例を発信することで、社内の意識向上や横展開が促進されます。結果として、プロジェクトの推進スピードが上がり、導入効果も早期に見えてきます。

スモールスタートからの拡張と全社展開

いきなり大規模な投資を行うのではなく、まずは限定的な範囲でテスト的に導入するスモールスタートがリスクを抑えるコツです。初期段階で課題を発見し、改善策を試行しやすいため、最終的な導入の完成度を高められます。

パイロットプロジェクトで一定の成果が得られれば、その成功事例を基に現場や他拠点にも展開していくことで、導入に対する抵抗や不安を払拭しやすくなります。また、プロジェクト中に培ったノウハウを横展開することで、迅速な導入と費用対効果の明確化が図れます。

全社展開にあたっては、システムの標準化やベストプラクティスの策定も重要です。異なる工場や部署がばらばらのツールやプロセスを使用すると、データ分析が複雑化するため、できる限り共通化した枠組みのもとで運用するのが望ましいでしょう。

導入事例で見る製造業DXの成果

実際の導入事例を通じて、ITとOTが連携したデータ活用が企業にもたらす具体的な成果や課題解決のプロセスを確認しましょう。

オムロン株式会社
工場のトレーサビリティシステムを下支えするデータ連携プラットフォーム

工場のトレーサビリティシステムを下支えするデータ連携プラットフォーム | オムロン株式会社

オートメーションのリーディングカンパニーとして、工場の自動化を中心とした制御機器や電子部品、ヘルスケアなど多岐にわたる事業を展開しているオムロン株式会社では、製造現場で発生した障害などに起因した影響範囲の特定や現場作業の業務改善に向けた取り組みの一環として、工場の稼働状況を可視化するためのトレーサビリティシステムを構築。Excelや既存の分散システムなど現場ごとに異なる環境から取得された情報を適切なフォーマットに変換し、上位のトレーサビリティシステムと円滑にデータ連携する仕組みを構築した。

日機装株式会社
工場のデジタル化を目指し、データ連携を一元化、データ活用の基盤を実現

工場のデジタル化を目指し、データ連携を一元化、データ活用の基盤を実現 | 日機装株式会社

1953年に創業した日機装株式会社は、工業・医療・航空の3分野を主軸に産業用特殊ポンプやCFRP製航空機部品、血液透析用医療部門機器などの製造を手がける。ベトナムに工場を設立するなどグローバル展開を進め、さらなる事業拡大を目指す同社航空宇宙事業本部では、工場のデジタル化・業務効率化を推進すべく、複数工場にERP/PLM/MESを導入。システム間および既存の基幹システムとの連携技術を活用し、短期間での開発とともに、効率的に運用できる環境を実現した。

日清食品ホールディングス株式会社
生成AIを活用し“データドリブン”経営に寄与するデータ分析基盤を整備

生成AIを活用し“データドリブン”経営に寄与するデータ分析基盤を整備 | 日清食品ホールディングス株式会社

革新的な技術とアイデアで新たな食文化を創造している日清食品ホールディングス株式会社では、中長期成長戦略2030として掲げる目標達成に向け、デジタル技術を活用した事業変革を推進しており、サイバーセキュリティをはじめとした5つの施策に取り組んでいる。その1つに掲げる「“データドリブン”経営に寄与する基盤の整備」実現に向けてデータ連携/分析基盤を整備。部分最適化された各システムからのデータを集約してDWHに投入するためのデータ連携基盤を構築した。

まとめ

IT×OT融合を目指す製造業DXにおいては、技術と組織の両面から取り組むことがポイントです。

ITとOTそれぞれの強みを生かし、相互に補完し合う形でデータ連携を進めることで、現場の稼働効率や品質向上、さらには経営レベルの戦略策定まで大きく変革をもたらすことができます。日本の製造現場はきめ細かい技術力に定評があるだけに、そこにテクノロジーの力が加わると新しい価値創出が一段と加速するでしょう。

導入を成功させる鍵は、スモールスタートによるリスクの低減と、ガバナンス体制の確立、そして組織横断的な協力体制の構築にあります。現場と経営層が同じ方向を向きながら、データを共有して問題点を洗い出し、連携して解決策を実行する文化を育てることが重要です。

これからもグローバル競争や環境対応の要請は厳しさを増していくと考えられますが、ITとOTの融合による製造業DX化は、日本の製造業が再び世界をリードする大きな力になるはずです。これを機に、データ連携の基盤をより一層強化し、市場の変化に柔軟に対応できるものづくりへと進化を遂げましょう。

執筆者プロフィール

細見 せいじ

  • ・所 属:マーケティング部
  • 都内のSierで約10年システム開発に従事したのち、2016年 アプレッソ(現:セゾンテクノロジー)にjoin。 データ連携ソフトウェアDataSpiderの開発エンジニア→プロジェクトマネージャーを経て、現在はマーケティング部でデータ利活用領域を担当。 システムエンジニア時代に培った IT システム活用経験をベースに、お客様の『データ利活用』『デジタル・トランスフォーメーション』を支援している。
  • (所属は掲載時のものです)

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