現在、クラウドを取り巻く状況は一気に進み、少し前まで「これから」の取り組みとして語られることも多かったクラウド化の取り組みは、「今やらなければならないこと」として語られるようになってきたように思います。しかし、そのためにこれから何にどう取り組めばよいのでしょう、あるいはそもそも、クラウド化の流れは今どういう状況なのでしょう。
そこで今回、セゾン情報システムズのCTOであり、またテクノベーションセンター長である小野 和俊に、クラウド時代に向けた変革の取り組みを踏まえて、クラウドの「今」と「これから」について、クラウド化が進む今後「何に取り組むべき」なのか伺います。
PROFILE
小野 和俊
セゾン情報システムズ CTO・テクノベーションセンター長
アプレッソ 代表取締役
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肩書と所属はインタビュー時点のものです
ここ最近、クラウドを取り巻く状況は一気に進んだように思います。少し前までは「これから」の取り組みとして語られることが多かったところが、「今やらなければならないこと」として語られるようになってきたと思います。
しかし、クラウドに取り組まなければならない空気感は高まっている一方で、これから何にどう取り組めばよいのか、あるいはそもそも、クラウドは今どうなのかについては解らないことも多く、これからどうしたらいいかわかりづらい状況でもあると思います。
そこで、セゾン情報システムズのCTOとして、またテクノベーションセンター長として変革に取り組まれてきたことを踏まえ、クラウドの「今」と「これから」について、そして「今後何に取り組むべきなのか」について、話を伺えればと思っています。どうぞよろしくお願いします。
クラウドの「これまで」:クラウドである必要がある場合はクラウドを
まず、これからのクラウドの話をする前に、これまでどうだったかについて話を伺いたいと思います。以前はクラウドらしい使い方が多かったというか、クラウドの使われ方は限定的であることが多く、今とは状況が違ったと思います。
小野
去年(2016年)くらいから、クラウドをめぐる状況は大きく変わったと思っていますが、それ以前、特に最初のころは「クラウドはこういう場合に使いましょう」があったと思います。
「ピークタイムとオフタイムの差が激しい場合」にクラウドが向いている、例えば、キャンペーンサイトとか年末商戦とか、その期間だけ異常に使われるようなITシステムですね。あるいは日中しか使わなくて夜間は使わないような場合にクラウドは向いている。
ないしは「予測可能性が低い」場合。例えば、まさかのCMの大ヒットとか商品がテレビで取り上げられてWebサイトにアクセスが集中する可能性があるような場合。ピークに備えてシステムを準備するとずっと大変なコストがかかる、しかしピークに備えていないとせっかくのチャンスが来たのに、混雑でシステムが落ちてチャンスを逃してしまう。そのような場合、クラウドでなければ備えることが難しかったわけです。
「これまで難しかったことができる」「これまでにない形でコストを下げられる」点がアピールされることが確かに多かったように思います。クラウドの伸縮性(Elastic)という言葉が使われたりする状況ですね。
そうです。そういう場合にはクラウドを使うといいですよ、と最初のころはクラウドベンダーもそういう説明をしていました。
このメリットは、レンタカーに例えられたりします。いつも車を持っていたらずっとお金がかかりますが、旅行に行く時だけ車を借りれば安く済む。必要な時だけ費用を払えばよい、クラウドとはそういうものですよと。
例えば、バッチ処理で15分だけサーバ100台を借りて、それ以外の時間はサーバを落とせば費用は発生しない。大量のサーバで一気に処理できるから処理時間も短くなる。あるいは、予測できないアクセス集中があってもそれに合わせてサーバを増やせるので、普段はサーバ一台だけの料金だけで済むとか。
しかし、企業で使う社内システムは予測可能性が高くて、需要の上下も大きくありません。例えば勤怠システムが突然すごく使われてパンクするみたいなことは起こりません。なので、社内システムはクラウドに載せるのがお勧めですよ、という使われ方ではなかったと思います。
あるいは、事業部門の現場が自分たちが「このクラウドサービスを使いたい」ということで、事業の一部で何かのサービスを利用するようなこともあったと思います。
使いたいものがクラウド提供だったからクラウドを使っている、例えばセールスフォースでクラウドを使い始めましたというような使い方ですね。
いずれにしても以前は、事業の全部ではなくて事業の一部で、何かの事情でクラウドを使う必然があるのでクラウドを使うような使い方が多かったと思います。
「クラウドにしないといけない理由」「クラウドはこういうときに使う」がまずあったわけですね。
クラウドの「今」:「クラウドファースト」から「オールインクラウド」へ
しかし今では、クラウド向けなのかどうなのかをまず問うようなことはなくなってきて、「どういう場合にはクラウドを使うか」ではなく、「クラウドを使うべき」「クラウドを使うことが当たり前」になってきています。
実際にクラウドを使ってみると、特にマシンの入れ替えなども含めたTCOまで考えると安く済みますし、なにより、クラウドは使いたいと思ってから使い始められるまでの早さが全く違っています。
そこで、何年か前くらいからは「クラウドファースト」と言われるようになってきて、新しく作るシステムはまずクラウドを検討しましょうという話になりました。
クラウドが当たり前になってきたわけですね。
今ではそこからさらに進んで、最近では今あるシステムも含めてクラウドに変える、「オールインクラウド」「クラウドオンリー」なシステムの事例も増えてきています。
去年(2016年)にクラウドを取り巻く一気に状況が変わった印象を持っています。アメリカで行われる、AWS(Amazon Web Services)のイベント「AWS re:Invent」に毎年参加してますが、これまでは金融系の事例は一年に一つくらいでした。
最初にNASDAQがAWSを使ったという話があり、その後、大体一年に一つくらい金融の大きな事例がある感じだったと思いますが、金融系の事例が一気に沢山出てくるようになりました。
これまでは、ゲーム業界での導入事例や、基幹系ではない情報系での導入事例で使われていても一部という感じだったのが、金融系の事例が一斉に出てきたことを見て、エンタープライズでの利用が一気に進んできているな、と感じた参加者が多かったのではないでしょうか。
日本でも、三菱東京UFJがAWSを大々的に採用すると発表したことがかなり話題になりました。
それまでは世間の空気が「クラウドはまだちょっと様子見」だったりしたのが、日本でも「金融機関にクラウドができて、なんで俺たちができないんだ」に一気に流れが変わった感じがあります。
クラウドを選ぶことは「ビジネスを選ぶこと」に
去年(2016年)に「オールインクラウド」「クラウドオンリー」への流れを感じたわけですが、今年は(2017年)はクラウドは「さらにその先」に行っている感じがしてきています。クラウドに関する決定が、技術的判断だけでなく、経営判断でもなされるようになってきたと思えています。
以前は、クラウドの選択とは主に「技術的な選択」のことであって、情シスが選ぶとか、現場の部門、例えばマーケティング部門がこういう機能を持ったクラウドサービスを使いたいと考えて使う、部門ごとに選んでくださいというものだったと思います。そんなことに社長が口をはさむべきではなかったわけです。
しかし、システム全部をクラウドに載せるとなると、どのクラウドを使うか決めることの意味が変わってきます。そのクラウドに組織の命運を託すことになってくるからです。
世の中では沢山のクラウドサービスが提供されていますが、クラウドにはクラウドを提供する会社が必ずあるわけで、その会社と自社との関係はどうなのか、例えば、どうしても組めない相手が背後に見えるクラウドに会社を預けていいのかということにもなります。
同様に、競合する他社がどのクラウドを使っていていることを踏まえて、というようなことも起こりそうですね。
クラウドを選ぶことは、今や使う技術を選ぶということではなく、自社の基盤を何にするか、どの会社と組むのかを選ぶということになってきて、その結果、どのクラウドを使うかということを単に予算的な意味ではなく戦略的な意味で取締役会で話し合うような場合も出てきた。
これはクラウドが本当に普及した兆候にも思えます。
クラウドの使われ方の次元が変わってきて、キャズムを超えたのかどうかというような次元ではもうなくなって、クラウドを選ぶことそのものがこれまでになかった重みや力を持つようになったのだと思います。
その昔、Webが普及段階を超えて「ネットは当たり前」になったとき、HTMLタグみたいな技術の空間だったネットに人間関係なんかが持ち込まれるようになったとか、オンラインゲームが初期段階を超えた先に、他のプレーヤーを殺したり財産を盗んだりするPK(Player Killer)が出現したとか、そんなことも思い出すような話ですね。
クラウドを選ぶことが「技術を選ぶこと」じゃなくて「ビジネスを選ぶこと」になってきたわけですね。
クラウドを使うことが当たり前になり、すべてをクラウドにすることを前提に考える時代になってきました。
「オールインクラウド」の実現には、既存システムも含めてクラウドに移行することになりますが、しかし、既存のシステムをクラウドに移すことが容易ではないことがあります。
次回は、失敗せずに「クラウドへ移行」するにはどうしたらいいか、引き続いて話を伺います。
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