なんで「紙に書いて投票する」のか
~ITと「安全安心」について考える
マーケティング部の渡辺です。
データやITなどに関する様々なことをゆるく書いているコラムです。
日本の選挙はどうして電子投票ではないのか
執筆をしている現在、世の中的に選挙に関連した話題が多くあります。選挙になるたびに、「電子投票にしていない日本は遅れている」という日本の現状への批判を耳にすることがあるなと思っています。そのたびに「安全安心はいろいろ難しいな」と考えることがあるので、今日はそのことを書こうと思います。
まず選挙、民主主義国家の根幹たる制度ですから、いい加減な仕組みで運用されては困る事情があります。
一人で複数回の投票ができてしまうとか、投票結果を改ざんできてしまうとか、トラブルや故意で投票データが消えてしまうみたいなことは避けねばなりません。つまり、「きちんとした仕組み」が必要とされます。さらには、誰がどこに投票したのかが漏えいしうるような仕組みでも困ります。
つまり、平均的なITシステムで数字を取り扱うのとは、全く違う水準の配慮が求められる事情があります。投票機能くらい数字を足し上げるだけで簡単に作れるはずだ、と思ってしまうこともあるようなのですが、例えばスマートフォンで個人的に使うアプリを作るような状況とは全く話が違っていて、簡単なことではありません。
一方で、諸外国では電子投票システムが採用されていることがあります。それらでは当然、上記で挙げたようなことは(ひとまずは)対処されたITシステムが整備され、選挙で利用されています。
あるいは、難しい事情があることも知っているけれども、諸外国は電子投票システムを運用しているんだから、日本は紙の投票なんかやめるべきだ、みたいな話も見かけることがあるなと思っています。
どうやって広く皆さんに納得してもらうか?
私も技術的には、電子投票システムは十分に作れるものだと思いますが、本当に難しいのは「そこから先」ではないかと思っています。
民主主義が機能するためには、選挙制度への信頼があることが必要になります。自分が望んだ選挙結果ではなくても、きちんとした手順で選挙をやった結果なのだから仕方ないんだ、と思えるようになっている必要があります。
そういう信頼が揺らいだ状況、たとえば選挙で不正があったという噂が広められたりしても、それでも選挙結果が覆るような不正などあり得ないことを多くの人が納得できることが、健全に民主主義を維持できる仕組みとして望まれます。
その観点で、電子投票システムはどうでしょう。エンジニアには「きちんと考えて作ってある」と理解できるかもしれませんが、一般の人にはそうではないはずです。エンジニアであっても、目に前の個別のシステムに不正な細工がされていないかみたいな話になると判定困難になってきます。
機械に細工がされていて、選挙に不正があったという話を信じ込んでしまった人がいたとしましょう。その不信を払拭してもらうことはなかなか難しいはずです。あなたには理解できなくても、これはしかるべき人達が作った立派な仕組みなんだぞ、と叱りつけるみたいな形にどうしてもなってしまいやすいのではないかと。
紙に書いての投票ならどうか
紙に書いての投票ならば、疑わしさを誰にでもわかる形で相当に減らすことができます。
選挙の時に投票所に行くと、たくさん人が座っていたりします。あれは暇な人が沢山いて非効率なのではありません。例えば投票の強要など、不正行為がないか衆目の監視にさらすことで選挙制度の信頼を保っているのです。
開票作業も同じく、不正がないか監視の元で行われます。たとえば、ある政党Aが選挙不正を疑っているのならば、開票作業に人を派遣して見張れば不正を防ぐことができるし、見張っても特に何も指摘できなかったのなら、その政党としても結果に納得しやすくなります。
技術的に安全安心なITシステムを作ることは出来る。しかし「安全安心である」ことを誰にでも納得いただけるかどうかは話が別なのですね。
紙に書いて投票する仕組みの方が、選挙制度自体の信頼性が失われるようなことが起こりにくいと思えます。IT化した仕組みの方が、どういう観点からも優れているわけではないのです。
宇宙ロケットの信頼と、HULFT(ハルフト)の「安全安心」
ただし選挙はせいぜい一年に一回程度なので、投票所に出向いて紙で投票してもなんとかなります。毎週のように選挙があるのなら、さすがにスマホからも投票できませんか?のようなことになってくるはずです。
実施回数が多いのであれば、安全安心の実績での説得が今度はできるはずです。例えば失敗が許されない宇宙ロケットの打ち上げ、100回打ち上げを行いましたが失敗はわずか1回だけです、のような実績による説明で世界に信用をしてもらっています。
例えば、弊社の製品である「ファイル連携ミドルウェアHULFT」は長年にわたって信頼と支持を頂いておりますが、こちらも、間違いが許されない銀行の基幹システムで長年採用されつづけてきた実績で「安全安心」であることを信用頂いているところがあります。
「その連携システム、本当に大丈夫なんですか?」「HULFTを採用しております」「それなら、とりあえずは大丈夫か」
紙での投票の安全安心はなかなか侮れないですし、今後、民主主義制度自体への信頼が問われるような状況も起こりうると思うのです。なので私は当面は紙のままで良いのではと思っていますが、遠い未来までずっと紙の投票のままというわけには行かない気もします。
もし日本が電子投票システムを開発して採用するのなら、同じように「日本のシステムは22世紀になる前から、50年以上使われているけれど何の事故もなく圧倒的な実績だよ」「日本のシステムなら安心だから我が国も導入しよう」と思ってもらえるようなものになっていればとは思います(その時代になってもまだ世界に「国家や政府の概念」が残っていればですが)。
執筆者プロフィール
渡辺 亮
- ・マーケティング部 デジタルマーケティング課 所属
- ・2017年 株式会社アプレッソより転籍
- ・大学で情報工学(人工知能の研究室)を専攻したあと、スタートアップの開発部で苦労していました
- ・中小企業診断士(2024年時点)
- ・画像:弊社で昔使われていた「フクスケ」さんを私が乗っ取りました
- (所属は掲載時のものです)