「デジタルトランスフォーメーション」対談 第1回 ――― DXは経営課題である(後編)

経営の観点から考える「デジタルトランスフォーメーション(DX)」をテーマとしたITR 会長/エグゼクティブ・アナリスト 内山 悟志氏と、セゾン情報システムズ 技術顧問 小野和俊の対談、DXの取り組みをどう進めるかについて語った前編に続き、後編ではDXの鍵を握るデータの重要性とあわせて、情報システム部門が担う役割について語ります。

データがビジネス資源になる時代

内山
これからは、「データ」がなによりも重要なビジネス資源になります。データそのものが有償で売られたり、データの有無がビジネスの勝敗を左右する時代になっていくでしょう。ですから、まずは「経営資源としてどのようなデータを持っているのか」そして「データがどこにあって、どう活用できるのか」をしっかり把握できる基盤を持つことが経営の必須要件になると思います。
現状では、製造業などでもそうですが、日々発生している膨大なデータの重要性に気づいておらず、溜めているだけで活用されていないケースも多くあります。特に日本の大手企業ではデータの棚卸が十分できていないように感じます。

小野
「データのカプセル化、エンキャプセレーション」という言葉があります。薬のカプセルのように、データを「カプセル」で包み込むことで複雑さを隠し、なにが入っているか意識しなくても「これは風邪に効く薬」というような形で使えるようにすることを指します。たとえば、HULFTやDataSpiderではこれまでデータ授受に関して、プロトコルや文字コードなどを含むさまざまな手続きをカプセル化していたわけです。これからは内山さんがおっしゃるような、受け渡すデータの中身についても踏み込まなければならない時代に来ています。「データがどこにあるのか」「どの程度の頻度で更新されているのか」といったメタデータのカプセル化こそが、DXで求められる要件なのではないかと思います。

内山氏

内山
そうですね。企業には、たとえば電力会社における電力の操業データや、製造業で稼働する生産機械の運行データなど監視対象になるデータがたくさんあります。データを棚卸できていない企業がある一方で、これらのデータからなにか知見を生み出せないかと検討する企業も増えています。これまでは「ある部署でこのデータを使えばものすごく役立つのにデータの存在を知らないためにチャンスを逸している」といったことが起きていたのですが、最近はデータという観点から業務やプロセスを見直せば新しい発見が出るのではないかと気づく企業が増えてきました。

小野
全社的にどのようなデータがあるのかを見える化しようと言ったときに、手作業でやるのは大変です。こういった苦労を一つひとつの会社でするのではなく、我々のようなツールベンダーが吸収して簡単にするべきではないかと考え、こういったメタデータのカプセル化を実現する製品として「DataCatalog」を発表しました。DXの観点からもメタデータはますます重要になりますから、我々がそれを担わなければならないと感じています。

データと向き合うための環境が求められている

内山
DXを進める際に、DX推進組織を新たに作る企業もあれば、IT部門に期待している企業も、事業部門で進める企業もあります。どこが主体になるかは自由ですが、どちらにしてもデジタルリテラシー、なかでも特に「データリテラシー」が低いとついていけません。

小野
以前、縁あってデータサイエンティストの集まりに何度か参加したことがありますが、面白い気づきがありました。私はプログラマーですが、プログラムに対する審美眼と言いますか、パッと見ていいプログラムなのか、どこに問題があるかを見抜く力をつけるには、ある程度ソースコードと向き合った絶対量が必要です。同じようなことがデータでも言えるそうです。データとずっと向き合い続けることではじめて「これはなにかおかしい」「こういうデータがあるなら、ほかにこのデータがあればなにかしらの結果が出る」といった直感が生まれると聞きました。

内山
いわゆる匠の技ですね。

小野氏

小野
たとえば、セゾン情報システムズでも今まで経営会議の資料はExcelだったのですが、セルフサービスBIのTableauに変えました。いろいろなところからデータを抜いて、変換やマージ、集計して持ち寄ってTableauに表示します。これは可視化のためのデータ連携なのですが、このようないろいろなところに分散しているデータをフロントに出すためのデータ連携のような案件が最近増えています。データリテラシーを向上させるためには、データと向き合い続けるしかない。データと向き合うには、向き合えるような形で表現されていないといけない。そこで、こういった案件が増えているのではないでしょうか。

内山
目の前にデータがあって、もしかしたら業務と関係があるかもしれないと気づきを与えるには、データサイエンティストが匠の技で見つけるインテリジェンスと、日ごろの業務のなかで気づきを与えるインテリジェンスの2種類あります。匠に対しての道具も必要ですし、日々の業務のなかにも基盤的な要素として、データがいつでもどこになにがあるのかわかる状態になっている必要があるでしょう。そして後者の現場で埋もれているデータが実は宝の山なのではないかという気がします。

DXにおいて、情シスがすべきこと

小野
私はDXというのはお客様の体験や、事業競争力など“外向き”のものが主であるべきだと考えています。社内の業務効率化のなかにもDXと呼べるものがあるかもしれませんが、お客様と向き合うDXにフォーカスすべきだという意見です。内山さんはいかがですか?

内山
私も最初はそう思っていたのですが、最近では少し考えが変わりました。先ほどの経営会議でデータを見える化したケースのように、デジタルを使った社内効率化でも新しい価値を見出せるならばDXと言ってもよいのではないかと思っています。たとえば、RPAも以前はDXではないと言っていたのですが、これまで到底無理だったことをRPAで実現したケースが出てきました。おそらくこれにAIが組み合わさると、より高度なことができるようになるでしょう。「競争優位を確立するのに役立っているか」という観点で考えれば、こういった取り組みも広義のDXと言えそうです。

対談風景

小野
なるほど、そう考えることもできるのですね。DXは「デジタル」とつくからか、情シスが担当すべきと思われることが多いです。お客様と向き合うDXを狭義のDXとすると、これまで社内システムを担ってきた情シスがこれを実現するのは難しいだろう、と考えていましたが、社内効率化まで含めた広義のDXでは情シスも直接的に貢献できるところがありそうです。また、狭義のDXについても、情シス自身が主たる担い手ではなかったとしても、新しい技術を使わないわけにはいきませんから、間接的に関わることになるのでしょうね。

内山
そうですね。IT部門がこのままでいいかといったら、そうではありません。先ほど出てきた「バイモーダル」という話にもつながりますが、これまで担ってきたモード1の部分を合理的にする努力が必要になります。そのうえで、新しい技術や開発手法、運用方法など最新のものを取り入れ、IT部門自身も既存業務の合理化・高度化と新規事業の開拓を両立する『両利きの経営』に近づいていく努力が必要でしょう。
また、DXを進める現場部門がクリエイティブな発想ができる基盤を提供することが重要です。DXを推進しようとしたときに、データ基盤がバラバラだったり、データ品質が悪かったりするようでは困りますし、ナレッジ共有やコラボレーションの仕組みが洗練されていれば進めやすくなります。データの見える化を含めてこういった環境を整えて推進するのもIT部門の役割でしょう。あとは新しいチャレンジをするときに、最新技術のアドバイスをする「目利き力」も期待されているかもしれません。

バイモーダルで目指すDX

小野
私事ですが、3月1日にクレディセゾンのCTOに就任しました。金融は失敗が許されない、モード1的な傾向が強い業種ですが、ここで変化を起こせたら大きな意味があるのではないかと考えています。私はやはりDXはお客様に向き合ったことをすべきだという考えを持っているので、クレディセゾンでもそれを進めていきたいですね。
デジタル時代になって1番大きく変わったのはスマホの普及です。スマホ時代にあわせた事業の再設計がほぼすべての事業会社に求められていますから、この点を自分たちの内製チームで進めたいと考えています。開発を内製で進めるべきかという点は議論がありますが、こういったモード2領域、DXでお客様体験を変えるために自分たちが動いているんだと感じられるようなところは内製中心で手がけるべきだというのが私の考えです。そのための技術者はいろいろなところから集めていますが、社内とつながらなければ意味がないので、「バイモーダル」と言っている私が「どちらの気持ちもわかるよ」と言いながら進められたらと思っています。

小野氏、内山氏

内山
クレディセゾンはある意味日本一お客様のデータを持っている会社のひとつですから、ビジネスに活かせる部分も多いでしょう。経済産業省と東京証券取引所が推進する「攻めのIT経営銘柄」の分類では、クレディセゾンは「その他金融」に入ります。リース会社やノンバンク系企業も含まれた少し雑多な領域ではあるのですが、逆に一番突破しやすい、チャレンジしやすい領域でもあります。ここが大きく変わると、銀行や証券業界も焦りだすのではないかと思うので、「クレディセゾンが最近すごいことやってるぞ」と言われるようなことを期待しています。

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