「クマ対策」を自衛隊にお願いするのはなぜ「良い手ではない」か(世の中は予想以上に「餅は餅屋」)
マーケティング部の渡辺です。
データやITなどに関する様々なことをゆるく書いているコラムです。
「クマ対策」の話題
今回は昨今大問題となっている「クマ対策」の問題について、少し話題にしてみたいと思います。
執筆現在(2025/10)、ネットにおいてもテレビなどにおいても「クマに関する話題を目にしない日がない」ほどに、人が住んでいるところにクマが出没する事件が相次いでいることが話題になっています。
あまりにもクマが出没すること、にもかかわらず猟師によるクマの駆除など従来のクマ対策がうまく機能しないことから、とうとう県知事が自衛隊にクマ対策で出動要請を行うまでの事態となってしまいました。
⇒クマ被害で自衛隊派遣を緊急要望、秋田知事が表明 28日防衛省訪問 - 日本経済新聞
⇒クマ被害相次ぐ秋田県知事、自衛隊派遣を要請…小泉防衛相「危機的な事態」と陸自連絡員を派遣へ : 読売新聞
実際に増えているクマ出没事件
さてさて、最初に「クマ出没」が実際に増えているのか確認してみましょう。書いている今現在では世の中がクマで大騒ぎですが、これが読まれている時点では、昔の話になっていて説明しないとわかりにくいかもしれないことも含めて。
⇒クマ出没は上半期で2万件、過去5年間で最多 「過去最悪」の被害 [相次ぐクマ被害]:朝日新聞
世の中では「多いと騒がれているが、実際には多くない」ことは割とあったりします。例えば「凶悪犯罪が増えている」印象が持っている人が多くなっているのですが、実際には昭和30年をピークに件数が減っている有名な例などがあります。
そういうこともあるのでデータを確認した方が良いのですが、「クマ出没」に関しては世間での印象の通り、事件発生件数でも「過去最悪」であることが解りました。今年(2025年)ではさらに、「市街地を歩くクマ」や「自動ドアを開けるクマ」の映像など、「ショッキングな映像」が報じられたことから心理的にも従来とは異次元の事態になった印象もあります。

すでに「市街地にイノシシ出没」が問題になっていた
ただし、今年になって突然このような事態になったわけではありません。以前から多くの「問題の予兆」がありました。実はクマ問題、「事前に対処していれば大変なことにならずに済んだかもしれない」の例かもしれません。
以前から、「クマに限らない」野生動物が市街地に出現するようになったことが問題になりつつありました。例えば、現在クマで問題になっているように「イノシシが市街地に出没してゴミを荒らす」などの事件が起こるようになったことがすでに問題とされつつありました。さらには、どうしてそんな事件が起こるようになったのか、調査と分析も行われていました。
まず、「里山」がなくなったことが原因として挙げられていることがあります。昔から、人は生活のために野山に手を入れて利用してきました。それにより、「人が住むゾーン」と「野生動物が住むゾーンの間」に,「野山だが人の活動があるので野生動物は近寄りにくい」領域(いわゆる里山)があって緩衝地帯になっていたけれども、それがなくなってしまったので動物がダイレクトに人の住むゾーンまで一気に入ってくることが容易になったのではないかという意見です。
また人里には、「人口が減って空き家になった庭に、利用されなくなった果樹の果実が放置される」など餌になるものが放置されがちであるなど、動物を呼び寄せる要因もそのままになっていました。動物が入ってくることが容易になり、さらには動物を呼び寄せる要因まで放置されていたわけです。
さらに、野生動物が「市街地にまで」出現するようになったのは、動物が川沿いに河川敷を気付かれることなく移動できる状況があり、川をたどって下流の市街地の近くまで来れるようになったこと、さらには市街地には動物にとって極めて栄養価の高い「人間の食べ残し」も大量にありました。
イノシシからすると、食べ物に乏しい山中で一日中地面を掘り起こしているのに比べると、びっくりするほどハイカロリーな人間の食べ残しがあちこちに放置されている市街地は天国のようなところでした。河川敷などに潜みながら夜にゴミを荒らすようになっている、ということが解っていました。つまり、どうしてそうなったのかを調べてみると、イノシシに市街地に来てくださいと言っているような状況ですらありました。
以上から、取るべき対策があることは、すでに解っていたわけです。
- 野山に再度手を入れて、里山などのバッファーゾーンを回復する
- 利用しなくなった果樹を切るなどして、人里に動物を呼び込まないようにする
- 河川敷などが動物にとって移動のハイウェイにならないように対策する(あるいは河川敷に近づけないようにする)
- ルールを守ったゴミ出しをして、動物に荒らされないようにする
クマ出没についても、これらの対策でかなり防げる気がしませんか。今、「クマをどうやって駆除するか」が話題になっていますが、そもそもクマ出没自体を未然に防げたかもしれない、ということです。
「クマが人を恐れなくなった」深刻な問題
また昨今のクマ騒動では、「クマが人を恐れなくなっている」ことも深刻なことです。人とクマが住み分けて共存するためには、クマが人や犬を怖がって距離を取り、人の側も適切に距離を取って互いに住み分けることが必要だからです。
例えばクマが出没する地方では、山に入るときに「クマよけの鈴」を付けたり、歌を歌うなどして声を出すようにすることが推奨されてきました。クマが鈴の音を怖がるから対策になっていたのではありません。クマに「人がいる」ことをわかりやすく知らせ、クマの前に突然人間が現れた形になってクマが驚くことで、事故になるような事態を避けていたわけです。
ただしこの対策は「クマが人を恐れている」ことが前提なので、そうでなければ、クマよけの鈴はクマを追い払う手段にはなりません。むしろ、人を襲って食べたことのあるクマや、あるいは人に餌をもらったことのあるクマならば、「ここに人がいます」というシグナルは、クマをわざわざ呼び寄せることになってしまうことにもなりえます。
そういうこともあり人を襲ったりしたクマは駆除されてきました。しかし、昨今問題になってきたのは「クマに餌をあげる人」です。そうなると、人を怖がらないどころか、人に餌をもらいに来るクマみたいなことになってしまいます。
クマを駆除するのは可哀そうだ、山に餌がなくなって困っているのだから食べ物をあげるべきだ、あのクマは穏やかで人の近くに来ても襲ってきたりしない(としてクマを撮影しているネット動画)みたいな主張もあるようですが、「動物と共に暮らす」ことにおいては達人であるムツゴロウさんすら「クマは無理」だと諦めたくらいの動物なので、犬や猫との関係のようにクマと仲良く暮らすことは難しいと思われます。
そうであるなら、クマを無駄に殺生しないためにも、昔からの関係「人とクマが互いに距離をとって暮らしている状態」にすることが必要に思えます。
「クマの駆除」をしなければならないが
問題の本質的解決には、ここまで書いたような予防的な取り組みが重要ではないかと思われます。しかし、現に市街地にクマが出没して人を恐れないような状況となってしまっています。クマを説得して山に戻ってもらうことはできませんから、そうなると「駆除する」しかなくなります。
伝統的にはクマの駆除が必要になった時には、地元の猟師(猟友会)に依頼して対処がなされていました。ですが、猟師をやっている人は数が減って高齢化しており、クマ対策だと呼び出されて当然のように対処させられるのは勘弁してほしいとして揉める例が出てきました。
自分の住んでいる地区にクマが出没するようになったら、もはや安心して暮らすことはできません。そうやって考えると「クマの駆除」は「社会が切実に必要とすること」でした。なのに、当然のように誰かの厚意に頼っていたわけです。先日、「埼玉県での下水道の陥没事故」について記事を書きましたが、「我々の社会の安全安心を黙って支えてきたもの」が事故を起こす事件がどうも相次いでいます。
⇒ITとビジネスの今どきコラム │ 社会インフラの事故が相次いでいるのはどうしてか考える~これから再評価されるかもしれない「安全安心」
猟友会へのお願いが難しいのならどうしたらいいでしょうか。銃を撃てる人と言えば、まずその地元に警察官がいますが、警察官ではどうも十分な対策にならないことが解りました。明日も明後日もクマが出るかもしれないのにどうしたらすっきり解決するのかわからなくなってしまった。そこで、いっそのこと「自衛隊にお願いしてはどうだろうか」という発想が出てきました。具体的には秋田県知事が出動要請してしまいました。
しかし、クマ駆除にはむしろ無力だった自衛隊
「自衛隊を呼ぶ」というのは素人考えには、良いアイディアに思えるかもしれません。また、業を煮やした知事が決然たる対応を取りました、というような態度表明としても、「クマごときに軍事力」(ではなく自衛力ですが)というのは、「どうだ!徹底的に対応してやったぞ!」みたいな感じもどこかあるような気がします。
しかし、実はクマ駆除に自衛隊を呼んでも無力であり、つまり「素人考え」にすぎませんでした。思いつきで「○○すればいいんだ」みたいなことと、「本当に解った上できちんと対応する」ことには大きな違いがあり、「自分がその分野に詳しくない」なら謙虚にならなければならないことを戒める話ではないかと思います。
どうして自衛隊では良くないのか、それは自衛隊が「人と戦うための組織」だからです。
さて、どうしてダメなのでしょうか。クマを駆除するなら、自衛隊員が持っている銃でクマを撃てばいいじゃないか、どうしてそれでダメなんだ?と思うかもしれません。
自衛隊員は確かに「自動小銃」を持っています。持ち運べるマシンガンですから、人間相手には絶大な威力があります。街中で乱射されたらたちまち大惨事です。しかし、兵器としては「人間相手での戦闘に最適化」されています。人との戦闘において「無駄に高い火力」にするよりは当然「撃てる弾数を増やす」ようにしますよね?
クマは人よりもはるかに大きく、強靭な肉体を持つ動物です。具体的には、89式5.56ミリ小銃(NATO共通規格の5.56ミリ銃弾)では、クマを一撃で殺傷することも、一撃で無力化することも困難です。そうなると、むしろ撃ったら「手負いのクマ」となって、暴れたり襲い掛かってくることになります。
クマは本気で走ると時速50キロで、両手の一撃は自動車を破壊できるレベルであり、体当たりされても人は助かりません。「クマが本気で暴れる」のは大変避けねばならない事態です。多人数で囲んで乱射すれば何とかなる可能性もありますが、それでも決死の対応となってしまいます。「武器を持ってるだろ?」という発想は、まさしく素人考えだったわけです。
他にも適切な装備がない
自衛隊には自動小銃以外にも装備(兵器)がありますが、どうもクマに適するものがありません。
威力の高い重機関銃ならクマを倒せるかもしれませんが、携行を前提としておらず非常に重たいので、山地や市街地を走り回るクマを追いかけて利用できる機動性がありません。それ以外となると、対戦車兵器や対空兵器になってしまいます。もしかすると、クマに携行できる対戦車砲を打ち込めば退治できるだけの威力があるかもしれません。しかし、あまりにも話がおかしい対応ですし、市街地で対戦車兵器を発射できるのかというとその時点で難しいところがありましょう。本当に適切な装備がありません。
なお、解っている人に聞けば「5.56ミリ弾ではクマを倒せない」ことはすぐわかるような話のようなので、知事が専門家に意見を聞いていれば「良いアイディアではない」ことは簡単に解ったとみられます。しかし専門家に聞かずに思いついて行動してしまったようです。
しかし頼られた自衛隊、それでも国民の役に立ちたいと思ったのか「ちょっと難しいです」とは言わず出動しました。ただし、(やはり)自動小銃は持たずに「クマを捕らえる罠の輸送」などで活躍することになりました。民間の人でもできることなので、つまり自衛隊を呼ぶ必要はたぶんありませんでした。
誰がクマを駆除できるか?
では、どうして猟師の銃では倒せるのでしょうか。まず、クマを想定した火力の銃であることと、自衛隊のものとは銃弾自体の種類も異なっています。銃弾が命中したあとに、動物の体内に残ることで高い殺傷力を持つ「ダムダム弾」を猟師は使います。
一方で自衛隊はダムダム弾を基本的に持っていません。なぜかというと、撃たれたあとに体内に残るやっかいな銃弾は「非人道的な兵器」であるため、国際条約で禁止されているのです。どうやら「人と戦うプロの装備」は、「クマを駆除するプロの装備」とは予想以上に違いました。武器を持っているし、クマくらい退治できるだろ?というのは、あまりにそれぞれの専門領域へのリスペクトが足りませんでした。
では、自衛隊でないなら、誰にクマ退治を頼るべきだったでしょうか?
ここまでわかってみると、「専用の銃」で「専用のトレーニング」を受けていることが重要らしいと解ってきます。そして本質的には国防の問題でも災害でもなく「地域で平常時に発生する問題」です。ならば、武器を取り扱うこと、クマ出没で混乱する現地での調整作業ができる能力も必要であることも考えると、「地元県警がクマ対策チームを用意しておく」のがどうやら筋が通っているように思えてきます。
自衛隊の出動要請をした秋田県も結局そういう結論に至ったようで、秋田県警の機動隊員でクマ対策チームを作ることになったようです。
⇒「クマ対応の最前線」 秋田県警がライフル銃駆除チームの出動式 機動隊と警察署に配置 - 産経ニュース
世の中は予想以上に「餅は餅屋」
「クマ対策で自衛隊出動」と聞いて、良いアイディアだと思ったりしなかったでしょうか。私は聞いてすぐに「なんだかおかしくないか(目的が違うものを違うことに使うのは良くないことになりやすい)」までは思いましたが、こんなにも問題が多いとは思いませんでした。
考えてみると、「クマ退治なのに自衛隊を呼んじゃったよ」みたいなことは、ITでも似たようなことはありませんか?例えば、一般企業が「DXをするんだ」みたいな状況などで起こりがちな失敗にはそういうことが多いようにも思えてきます。もちろん、「人は誰でも最初は知識不足」ですから、そういう失敗は仕方ないところも当然あるわけですが。
解ってもらいにくい「ファイル連携」の価値と深さ
そういえば「我々の分野」でも、解ってもらいにくいことがあります。例えば弊社のファイル連携ミドルウェアである「HULFT」(ハルフト)、素人考えだと「ファイルを転送するだけだろ?」「他の方法でもできるだろ」とか思われたりして、解ってもらいにくいところがあります。
しかしながら、日々の業務を支えているITシステムでは、「データが壊れちゃいました」とか「実は届いていませんでした」ということが軽々しく許容できるものではなく、特に他社とのやり取りなどになると本格的なトラブルになりかねない問題となります。
「エラーなく確実に安全安心にデータ連携できる」何らかの基盤を開発する必要がありますが、そのためには多くの作りこみが必要になり、さらにはそういうシステムを自前で開発したとて「本当にきちんと作ってあるITシステムであること」をどうやって顧客に説明するかすら大変です。
さらには現実の運用を考えると起こりうる「いろいろな事態」への対応能力も必要になってきます。例えば、回線障害時に転送が途中で止まってしまった場合に「A社とB社のどっち側責任だ」みたいな大変な状況が起こることがありますが、そういう場合に何が起こったかをスムーズに確認して対処できる機能なども必要になる、などなど書ききれないくらいに多数のことが必要になってきます。
「銀行の業務を支えられるレベルの、きちんとした連携基盤」を実現するためには多くの手間が必要であることの理解を経てようやく、買ってくるだけで「必要なものが全部問題なく揃っている」価値を理解いただけるところがあります。
「つなぐ」難しさ
また、武器を持っているからと言って自衛隊や警察官(機動隊)をそのまま呼んだだけではクマ退治できません、というのは「何かと何かを連携させて機能させる難しさ」のことでもあるかなと思います。
我々のもう一つの柱の製品、「DataSpider」や「HULFT Square」は様々なクラウドやシステムを自在に連携するプロダクトですが、同じく「連携させる」とは「ただデータを右から左に流せばすむ簡単な話ではない」という現実があり(あるいはそもそも対象システムに接続するだけで諸々の手間で大変なことも)、場合によっては「連携部分で予想外なくらいに本格的な作りこみ」が必要になることもあります。
そういうことがあるからこそ、弊社製品には本格的なプログラミングと同様のことまで可能な「ノーコードでの作りこみ能力」など諸々の機能が備わっています。プロ向けの製品として提供させていただいているとはそういうことであります。ただ、そういう事情は誰にとっても自明ではあるわけではありません。今回の話に例えるなら、あるいは「自衛隊や警察官」を「クマ退治」の分野に連携させて活躍させるとするなら、予想以上の準備が必要になることは解りづらいように。
世の中は予想以上に「餅は餅屋」ですが
「本当に解っている」とは本当に水準の違うことで、きちんと解っていないのなら謙虚にならなければいけないのだな、と思った話題でした(どうしてクマが市街地に出没するようになったのか、のそもそもの話も含めて)。
自衛隊はむしろクマ駆除に無力だったという話を聞いて、世の中は予想以上に「餅は餅屋」なのだろうなと思いました。今や21世紀、世の中はますます高度化している時代、そのような慎重さはこれからますます必要になっているはずだとも思えます。一方で、一つの専門領域で閉じることなく、広い分野にまたがった従来にない発想の取り組みも求められる時代でもあります。つまり「餅は餅屋」だけれども「井の中の蛙」でもダメだということです。大変な時代であります。
執筆者プロフィール
渡辺 亮
- ・マーケティング部 デジタルマーケティング課 所属
- ・2017年 株式会社アプレッソより転籍
- ・大学で情報工学(人工知能の研究室)を専攻したあと、スタートアップの開発部で苦労していました
- ・中小企業診断士(2024年時点)
- ・画像:弊社で昔使われていた「フクスケ」さんを私が乗っ取りました
- (所属は掲載時のものです)
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