業界全体のデータ活用底上げのカギを握るのは“泥臭く生々しい事例”

現在の金融業界において、データ活用のハードルとなっているものとは?

小川 ひとつは、先ほど佐藤さんからお話のあった、「自分たちにはできない、まだ早い」という文化があることです。そういう風潮の中で、「データを活用したい」という人材が1人現れても、なかなか周囲の理解を得られず、いわば“みにくいアヒルの子”状態になってしまう。本来は皆が飛ぶ力を持った白鳥なのに、そのことに気づいていないというのが、多くの金融機関に共通する問題ですね。

佐藤 象徴的な例としてよく話題になるのが、ある企業でのコンペティションの事例です。社内にデータを活用できる人材がいないということで、外から人材を集めるためのコンペティションを実施した結果、上位入賞者は全員自社グループの社員だった、という。人材はグループ内にちゃんといたのに、気づいていなかったわけです。

岡田 最近では、大手金融グループがグループ内の社員を対象とデータコンペティションを開催し、社内のデータ人材の発掘に取り組んでいます。
データサイエンティストを採用しようとすると、社外から中途採用で採る事を考えてきたが、金融特有のカルチャーや働き方が他業界から来る人材にはフィットしづらく定着せずに離職してしまう傾向にあります。それに対して、社内のデータコンペティションは、既に金融特有のカルチャーにフィットしていて、自社の業務を理解している人材を対象に人材発掘・育成を試みるため、成功例が多く出てきています。実は、銀行広く見渡すと、新人などの20代や営業店にデータサイエンティストの素養も持った人材が埋没していた!みたいなことが分かってきました。
このようなデータコンペの取組みは、大手金融グループであれば単独で開催できるが、地域金融機関では単独開催が難しい。そこで協会で2022年12月頃~データコンペを開催し、金融業界横断で無償で参加頂き、地方の金融データ人材の発掘・育成に取り組む予定です。

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佐藤 確かに、「データ活用で金融機関を変えていこう」というやる気のある方が、社内の定期的な異動や組織再編で諦めざるを得なくなった、というケースはよくあります。FDUAとしては、標準化委員会やデータコンペ委員会の活動を通してそういう人材を発掘し、それぞれの金融機関内でポジションを守っていくことにつながる、データ活用の取り組みを続けていける場を提供したいと思っています。

そうした状況において、FDUAに加盟したセゾン情報システムズに対し、どのような活躍を期待していますか?

佐藤 すべての金融機関に必ず導入されているソリューションを提供している企業というのは、実は御社しかない。それは本当にすごいことで、網羅性という点で非常に意味があると思っています。この機能を使ってこんなことをしているという、金融機関にとって参考になるケースやノウハウをたくさんお持ちだと思うので、それを一緒に広めていだたきたいと考えています。

小川 御社のHULFTは、「データをつなぐ」というところでは私の経験上、他にはない有用なソリューションだと思っているので、ぜひデータ統合が本当にできている企業の事例を横展開していただきたいです。というのも、ある保険会社の方に、なぜこんなにデータ活用が遅れているのかと聞いたら、「今、ID統合のプロジェクトが走っていて、それを2年間やったあとにデータ分析に取りかかる予定です」と。いやいや、その状況は何年も前からまったく進展していませんよね、という。つまり、「データをつなげる」ところに深い谷間があるということです。

佐藤 データをどう活用するのかを決めずに、連携するということだけが先に決まっているというのも、データ活用が進まない一因としてありがちですよね。どの会社、どの部署にも同じように御社のソリューションが入っていて、その気になればいつでもつなげられる。でも、つなげたデータをなにに使うかが決まらないからつなげない、ということが起きてしまう。

小川 そういう状況で、「こんな“巨大戦艦”ができました!」みたいな、すごくきれいなデータ連携・活用の事例の話をされても、どうやってそこまでいけばいいのかがわからない。もっとコンパクトで簡単な使い方でいいので、こういう目的のためにまずこのデータをつなげて、次のステップでこうつなげてという、金融機関に特化した事例を共有していただけると、データ活用しやすい状態にぐっと近づくだろうな、と期待しています。

岡田 そうですね。どんな企業であっても、すんなりデータを活用できるようになるわけがない。ですから御社には、課題や苦労など、生々しい話を共有していただきたいです。金融業界には全体的に、ネガティブな情報を出さずに隠す文化があると感じます。競争領域においてはある程度仕方ないとしても、基本的なデータ統合や人材育成といった非競争領域においては、ノウハウを共有し合ったほうがお互いにメリットがあるはずです。
特に近年は、金融業界への異業種からの参入が増え、狭い業界内だけで争っている時代は終わりつつあります。そういう中、データ統合に関する泥臭い、生の事例を一番多くお持ちの御社が、それを発信していくことには大きな意義があると思っています。


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◆シス☆スタ 【金融データの活用とは!?企業間のバラバラデータはスルスルになる?】◆
セゾンテクノロジー公式youtubeチャンネル「シス☆スタ」にて、
金融データ活用推進協会様のインタビュー動画をご紹介しています。併せてご覧ください。