DDP利用開始から4か月で業務改善効果を実感、社員の意識や働き方もデータドリブンへ前進

データを「集める」「溜める」ことはできましたが、そこまでならできている企業はたくさんありますよね。

そうですね。しかし、「データ入れたよ! はいどうぞ」だけでは、ユーザーはデータを使えません。自力で必要なデータにたどり着く方法を与えられていないからです。企業においてデータ活用がなかなか普及しない要因の1つは、まさにそこにあります。「~がしたい」「~なのでは?」というユーザーの要望やひらめきに対して、「それならこのデータを使えばいいよ」という筋道を示してあげる必要があるわけです。

そのためのツールがデータカタログです。これはひと言でいうと「データ辞書」で、データの所在や説明、件数、来歴、管理者など、データに付随するメタ情報を管理するツールです。データの品揃えや、データの示すビジネス上の意味を“共有知”にすることで、検索で簡単に必要なデータを探せる状態にします。

このメタ情報がいかに洗練されているかが、ユーザーの使い勝手に直結する重要なポイントです。システムの人間が考えてつけるのではなく、実際にそのデータを業務で使っている人たちの用語でつけてもらう必要があります。

検索によって社内の必要なデータにたどり着くという作業は、従来、情シスしか実施できないことでした。データカタログを全社展開することで、社員が主体的にデータを活用できるようになったわけですね。

そうなのですが、そこで問題となるのがセキュリティです。これまでは、データにアクセスできるのは情シスだけだったので、セキュリティの考慮点は限定的でした。しかし、全社員がいつでもデータにアクセスできるDDPの世界では、当然ながらセキュリティの考慮点は増えます。利便性とセキュリティはトレードオフなのです。

そこで弊社では、ロールベースアクセスコントロールという方法を採用しました。全社員に必ず1つ以上のロール(役割)をアサインし、ロールによって「データを見せる/見せない」をコントロールする仕組みです。見せ方としては、テーブルそのものを「見せる/見せない」ということもできますし、テーブルの列単位でコントロールすることもできます。たとえば社員マスタ系のテーブルなら、テーブル自体は全社員に見せるけれども、給与情報や住所情報といった特定の項目は列単位で人事部の社員にしか見せない、などと制御できるわけです。

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なるほど。セキュリティを担保しつつ、社員がデータを業務に活かせる状態になったわけですね。

はい。データを「活かす」上では、社員が自らの手で業務改善を行えるように、申請制で社員にツールを提供することにしました。展開したのは、自動化・効率化を実現するデータ連携ツールと、分析・可視化を可能にするBIツールの2つです。

データ連携ツールについては、実行環境を社内に構築し、誰でも利用できる状態にしました。ノーコードで使えるので、ユーザーは自動化・効率化に関して実現したいことを自力で簡単に実行できます。実行の際には、先ほど話したアクセスコントロールが有効に機能します。データ連携ツールで作成した処理自体は同じでも、実行する社員のロールによって、得られる結果が変わるわけです。

一方、BIツールは、日々の業務で生まれた“ひらめき”や 仮説”を情シスの手を介さずに社員が自ら検証できるという、まさに本プロジェクトの「実現すべき姿」に近づくために欠かせないものです。DDPのもっとも高度な活用法ですが、DWHからデータ連携ツールを使ってデータを集計加工してデータマートに入れ、BIツールで整形済みのデータをアウトプットします。そこまで使いこなせるようになれば、確実に大きなメリットが出てきます。

全社員がそうなればすばらしいですが、なかなかそう簡単にはいきませんよね。

そうですね。よって弊社では、活用・定着フェーズとして、冒頭で軽く触れましたが、DDPを利用する想定ユーザーをデータリテラシーの習熟度別に6階層のペルソナに分類しました。具体的には「超入門者」「入門者」「データ活用者(初級)」「データ活用者(上級)」「データサイエンティスト」「データエンジニア」の6つで、「この人たちはきっとこういうモチベーションでこんな活動をするだろう」という各階層の想定オペレーションを考えました。そして、それぞれの活動のためには、各種ツールの使い方をどの程度理解しておく必要があるか、という知識マトリックスを定義しました。

それによって、各階層に対して必要な教育の内容がある程度明らかになったわけですが、とはいえ一気に全社員を育成することはできません。「実現すべき姿」への最短ルートを検討した結果、弊社ではまず「データ活用者(初級)」「データ活用者(上級)」を重点的に育てることがもっとも効率的だと判断しました。そして、プロジェクト立ち上げ時に想定ユーザーとして選出したメンバー13名を「データ活用力向上育成メンバー」と名づけ、教育の最初のターゲットとしました。

case_study_12_Fig_03.pngDDPを利用する想定ユーザーを習熟度別に分類した、6階層のペルソナ定義と必要スキル

教育対象は決まっても、「なにをどう教えるか」というのは、多くの企業が試行錯誤しているポイントだと思います。

弊社ではまず、どこまでデータ活用できるようになりたいか、という目標を各自に設定してもらいました。その上で、取り組みやすいツールから始め、段階的に難易度を上げていくカリキュラムを組みました。各ツールにもっとも精通している社員が講師となって、各回 1~1.5 時間ほどのセミナーを実施し、その内容を撮影して復習用動画として公開しました。

注意したのは、データ活用力向上育成メンバーの上司や人事に対して、「この教育カリキュラムは正式な業務として実施させてください。業務時間外に取り組んだ場合には、残業として承認してください」とお願いし、メンバーが気兼ねなく勉強できる環境を整えたこと。それと、最後に総合演習課題を課すことを伝え、メンバーに使命感をもってもらえるようにしたことです。

また、脱落者が出ないように、全メンバーの取り組み状況を可視化して、メンバー間の競争意識を醸成しつつ、声かけなどのフォローを徹底しました。それから、エキスパートたちが集まるZoomの“寺子屋”を週1回開催して、気軽に質問できるようにしました。

総合演習課題とはどんな内容ですか?

すべてのツールを活用できないと解けないレベルの内容にしました。業務が忙しいなどの理由で課題を進められないメンバーには、別期間に取り組んでもらうよう案内しました。そして、3か月程度の教育課程を完了した結果、非IT部門の未経験者でも、「4種の神器」を駆使してデータ活用できるスキルレベルに到達することができたのです。総合演習課題についても、コンプリート率は約50%、未達成のメンバーも8割がたできていて、やる気になればできるものだな、と改めて認識しました。

最後のワークショップでは、講師の模範解答のあと、メンバー数名から回答時の思考過程を共有してもらい、皆でモブプログラミングを実施しました。それによって、さまざまなアプローチがあることを共有し、各自に持ち帰ってもらうことができました。

教育期間が終わったあとも、また選抜メンバー以外の人でも勉強できるよう、自主学習やスキル向上をサポートする仕組みを整えました。具体的には、効率的な学習に役立つコンテンツやコミュニケーションチャネルの整備、申請すれば自由に使えるツールの実行環境の提供、DDPに関する全情報を集約したポータルサイトの開設などです。

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社員がデータ活用をする上で必要な情報を網羅しているDDPポータルサイト

DDPの利用を定着させ、活性化させるものとして、ほかにどんなことに取り組んでいますか?

1つはオープンコラボレーションです。Slackをはじめ、すべてのコミュニケーションチャネルを全社員に公開して、好事例やナレッジの共有など、コラボレーションを加速させる仕組みを整備しました。

それから、今まさに取り組んでいるのが、「ユーザー同士が称えあい、評価される組織づくり」です。共有された好事例に対してユーザー同士で押す「いいね」を定量化して、評判の高いユーザー、データリテラシー向上に寄与したユーザーにポイントを付与します。そのポイント制度は、人事評価と連動して、社員表彰やインセンティブ支給につながります。そうした改革を続けることによって、弊社は“真のデータエンジニアリングカンパニー”へさらに近づいていけるだろうと考えています。

そうした数々の取り組みは、現時点で具体的にどんな成果を生み出していますか?

2022年4月にDDPの利用を開始したばかりなので、大きな効果を実感できるのはまだ先だと思いますが、すでにたくさんの好事例が出てきています。たとえば、現場部門の担当者が、受注情報シートに請求書送付先などの情報を記入する際、得意先コードを入力するだけで得意先マスタの情報を引き当てて会社名や住所などを自動表示できるようになった結果、入力ミスの防止や入力工数の削減を実現できました。

そうした業務の品質向上や効率化と同じく、ある意味ではそれ以上に重要な成果だと思っているのが、社員の意識や働き方が変わってきたと感じられることです。ITエンジニアが営業と同じデータを見られるようになったことで、自身の開発する製品の意義やお客様のニーズを知ることができるようになったというのは、それを象徴する一例です。

また、業務部門においても、まだデータリテラシーの高い一部の社員の利用が中心ではありますが、そこから好事例が出始めたことで、ITや分析スキルの高くはない社員の間でも「データを使って業務を改善するというのはこういうことなのか」という理解が徐々に広まり、「これまで手作業が当たり前だった業務を効率化できるかも」という発想で考える組織風土が育まれつつあります。

そういう状況を見ると、“ひらめき”や“仮説”を誰でも検証できるという、DDP構築によって目指した「実現すべき姿」に着々と近づいているのだ、と実感します。ただ、弊社はスタートラインに立ったばかりで、本番はこれから。データエンジニアリングカンパニーとして、今回のDDPの取り組みで得た知見を含め、お客様に最適な製品・サービスを提供し、一緒に未来を築いていきたいと心から思っています。

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