システムを導入する上で意識したこと

では、実際に開発したAIを現場に導入した際のお話を伺わせてください。

柴坂 滋賀大学さんと検証を繰り返し、ドラフト版を作成し、十分現場で使用できるクオリティだと感じたので試験的に導入をスタートしました。その際に最も意識したのは対人コミュニケーションですね。「AI導入」というと、なんとなく人間の仕事を奪われるようなイメージがあるじゃないですか。でも私たちの場合は、もともと人件費削減を目的としていませんから、「今ウチの会社にはこんな課題があるので、AIを使うことでこう解決できますよ」と伝えることで、社員にも課題意識を持ってもらうことを心がけました。

確かに、ものづくりやクリエイティブを生業にするからこそ、なおさらAIに対するネガティブなイメージがあるのかもしれませんね。

能勢 私たちのような会社がAIを導入する意味は、あくまで人にあると私は考えています。AIによって業務が効率化される。それによって生み出された時間を、社員の創造性を高めるための取り組みに充てる。常に人がクリエイティビティを発揮できる環境でありたいというのは、やはりものづくりに携わる企業として譲れない思いがあります。社員がもっと自由に挑戦できる機会をつくるために、AIによる業務効率化を推進していると、全員に理解してもらえるように努めたつもりです。

柴坂 私自身も現在、業務と並行して滋賀大学の大学院に通っており、データサイエンスについて学び、研究しています。業務効率化によって生まれた時間を有効活用して、自身のスキルアップはもちろん、組織の成長に貢献できるということを、プロジェクトリーダーである私自身が実践していきたいと考えています。

能勢鋼材株式会社 総務統括部 部長 柴坂 仁志 氏能勢鋼材株式会社 総務統括部 部長 柴坂 仁志 氏

能勢 組織にとって何より大切なのは人です。よくマーケティングの4Pっていうじゃないですか(Product、Price、Promotion、Place)。でも私は、1番大事なのはPersonだと思います。あらゆる組織、あらゆる事業は人が中心にあるべきです。そこは経営者として絶対にぶれないように心がけています。

実際の成果と今後のビジョン

AI導入の結果、何か目に見えた成果はございましたか。

柴坂 まず、仕分けにかかるコストは大幅に削減できましたね。わかりやすい数字で言うと、配送拠点やトラックの台数を減らすことができました。ただ何より大きいのは、ドライバーからのネガティブな意見が減り、モチベーションが上がったことです。定性的ではありますが、とても大きな成果だと感じていますし、今後もドライバーをはじめ全てのスタッフの負担を少しでも解消できるように磨きをかけていきたいです。

能勢 また、本プロジェクトの成功体験によって、最初はデジタルやAIに懐疑的だったメンバーも、そのメリットを実感できました。そのおかげで、「自分もこういうプロジェクトに参画したい」「こんな取り組みをやりたいんですけどどうですか?」と言ったポジティブな声が増えたと感じます。そういったメンバーにはできる限りチャレンジの機会をつくりたいと思いますね。

実際に何か新しい取り組みも始められているんですか?

能勢 今日お話したのは「配送ルートの最適化 」がテーマでしたが、新たに「母材保管」というテーマにも取り組み始めています。具体的には、切断・切削した素材の残った部分を、いかに有効活用し、スクラップを減らすか。そのアルゴリズムの開発に着手しています。現在は「どの素材がどれくらいどこに残っているか」という情報がデータとして共有できていません。すると、例えば新たな依頼があった際に「そういえば先週使った素材が、あそこにこれくらい残ってたはずだから、あれを使おう」といったふうに素材の活用方法が個々人に属人化してしまうのです。これを解決し、できる限り無駄を削減したいと考えています。

※接合あるいは切断される金属材料のこと

柴坂 個人的には、データサイエンスをひとつの事業として成立させたいという思いがあります。業界的にもまだまだそういった取り組みは進んでいませんから、自社内だけでなく業界にも大きなインパクトを生み出したいですね。

最後に、これからデータ活用に取り込もうと考えている方々にメッセージをお願いします。

柴坂 アナログが多いということは、それだけ伸び代があるということです。AI導入にしてもDX推進にしても、大切なのは面白がって取り組めるかどうかではないでしょうか。私たちの取り組みも、組織としては大きな挑戦でしたが、発見や学びが多くとても面白いと感じています。多くの企業にこの面白さを実感してほしいですね。

能勢 一見AIなんていう単語とは程遠く見える私たちのような鋼材屋でも、こういう取り組みができるんだという成功事例になれたらと思います。私たちの取り組みをきっかけに、データ活用にチャレンジする企業がどんどん増えていけばいいと思いますし、私たちも常に先端を走り続けて、実績を残していきたいです。

能勢鋼材株式会社 代表取締役社長 能勢 孝一 氏

※役職や所属は取材時のものです。