SPECIAL TALK

HULFT発案者と現開発・企画責任者で語る、
HULFT30年の軌跡

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1993年に異なる環境下においてファイル転送による業務連携を可能にするソフトウェアとして登場したHULFTも、2023年に30周年を迎えた。多くの企業で採用されているHULFTだが、これまでさまざまな変遷を経て、現在のHULFTが形作られている。そこで、HULFT誕生に深くかかわったエンジニアや現在の企画・開発責任者に集まっていただき、HULFT誕生の背景とともに、お客さまと歩んできた30年の軌跡を振り返っていきたい。そして、これから歩んでいくであろうHULFTの将来像についてその想いを聞いた。

HULFT発案・開発者

板野 豊

開発統括

石橋 千賀子

HULFT開発責任者

宇佐美 佑

プロダクトマネージャー

樋口 義久

市場で認知度を高めていたHULFT、
外からの気になる見え方

開発に至る経緯をお聞きしましたが、2006年に樋口さんが、2011年に宇佐美さんが入社されたと伺っています。そのころのHULFT自体はどんな状況だったのでしょうか。

樋口世の中のITシステムに詳しくない多くの学生同様、私も入社した時にはHULFTを全く知りませんでした。ただ、入社後数年経ったころ同じ業界で働いている友達のなかでも少し知られた存在となっていて、自社でHULFTを使っているという話も耳にする機会が増え、改めてすごいプロダクトだということをその時に実感したのを覚えています。

宇佐美私もセゾングループという名前に惹かれて入社したくちで、HULFTは全く知らなかった。正直に言えば、入社した当時は、”HULFTはもう終わり”みたいな雰囲気が漂っていました。ちょうど新たなデータ連携のプロダクトが登場したばかりで、そちらに注力していくという流れもありました。私の配属先はHULFTのメインフレーム版を開発しているチームでしたが、当時の役員から"HULFT、しかもメインフレーム版チームに新人を入れてどうするつもりだ"と言われたことも。

HULFTへの配属を希望していたわけではなかったのですね。

宇佐美ただし、当時の人事部長からは「あなたには絶対にHULFT開発に適正があるから、配属希望は無視して配属先を決めさせてもらった」と言われたことを覚えています。そこまでいうのであれば、自分の目で確かめてみようとHULFTに携わったところ、まさにドンピシャだったんです。長く愛されるプロダクトを成長させ続けることもそうですし、当時20代でアセンブラでコーディングできるエンジニアがほぼいない中、メインフレームというミッションクリティカルな分野で開発ができるということが非常に合っていたと思います。当時はHULFT7として、ミッションクリティカルな場面でお使いいただくため、「安全・安心」をテーマに、セキュリティ強化やJ-SOX法対応といった企業ニーズにマッチした機能を追加していました。

樋口HULFT8を企画する際に、実は大きな転機がありました。当初は新たなデータ連携プロダクトにHULFTを統合しデータ連携基盤化する計画でした。その企画ができた時点で、ユーザーの皆さまにお集まりいただき、ラウンドテーブルミーティングなどでご意見をお聞きしました。そこでは、確かに新たなデータ連携プロダクトもいいかもしれないが、HULFTという素晴らしいツールをさらに成長させて欲しいと多くの方からご意見をいただいたのです。弊社に求められているのは、あれもこれもできるというツールではなくHULFTで提供される安全安心でした。そのご意見を聞いた時、HULFTのまま進化を続けるべきだという考え方に傾いていったのです。
そんな折、DataSpider Servistaを持つアプレッソと業務提携する話が出てきました。今からETLを一から育てていくのではなく、すでに育っているプロダクトとともに、データ連携とファイル転送どちらもおさえていくという戦略に切り替えたのが、2014年のまさに大きな転換点でした。

お客さまからHULFTがいかに愛されているというのが分かった瞬間ですね。

樋口メインフレームとオフコン、そしてオープン系を連携させる際、仮にFTPで失敗するとリトライが大変だったり、連携するためのすり合わせに時間もかかったりしていた経験を持つお客さまが多い。ラウンドテーブルミーティングでは、HULFTを使うと迅速かつ確実に連携ができるようになって感動したと教えていただきました。改めてHULFTの凄さを実感したのです。

HULFTの現在地

現在は、HULFT8を筆頭に、HULFT IoTやHULFT-HUBなど、複数のHULFTソリューションを展開されており、2023年にはグローバルに対応するiPaaS(Integration Platform as a Service)(クラウド型データ連携プラットフォーム)「HULFT Square」の提供が開始されています。

樋口HULFT Squareは、ファイル転送のHULFTの機能はもちろん、DataSpider Servistaが提供してきたデータ連携の機能を一からクラウドネイティブとして開発、クラウドサービスとして提供するiPaaSです。企業間、国や地域、オンプレミスやクラウド間をシームレスにつなぐことが可能です。

新たなソリューションの話題もありますが、HULFTが持つフィロソフィーのような変わらない哲学はどんなところにあるとお考えでしょうか。

宇佐美言語化するのは難しいところですが、私は「お客さまとともに成長する」ということだと理解しており、それが成長の根幹にあると考えています。私が入社したときから、すでにマーケットリーダー的な位置づけにあったものの、驕ることはありません。
お客さまとともに成長するという想いは、私が管轄しているエンジニア組織であっても同じです。エンジニアは開発したいことが根本にあり、トラブルや障害、問い合わせ対応などは嫌いなもの。でも、現場で困っているお客さまの声を開発メンバーは聞くべきなのです。単に要望だけでなく、何に困ったのか、何を期待してくれていたのか、何に助かったのか、表情も含めてお客さまと対話することで理解できるのはとても大事なことで、いまも私自身大切にしています。私も最初は怖かったですが、喜んでもらうプロセスとして、プロダクトだけでなく我々の行動・姿勢・発言などいろいろなところが重要になってきます。だからこそ、お客さまとともに成長するという意識を強く持っています。

板野私の時代は、お客さまのところに行くことが楽しかったですね。昔は品質に課題が多く営業場面でもサポート対応の際にも、必ず私もお客さまに呼ばれていました。そこで話を聞くと、本当に参考になる。お叱りをいただくことも多かったですが、基本的にお客さまは優しいもの。お客さまの声を聞いてやるべきことがどんどん生まれてくるため、やはりお客さまとの対話は非常に重要だという想いは、今も昔も変わらないですね。なので今も宇佐美を割と連れ回しています(笑)。

“お客さまとともに成長する”を実践するために、組織として意識していることはありますか。

宇佐美開発部門は、製品のライフサイクルに合わせていろいろなところに関わりますが、「お客さま対応」「開発」「研究開発」の3つの時間軸の差があります。それぞれ担当を分けて実施すると互いに干渉されないため、成果は出やすいかも知れません。しかし、1つしかやらないと他の部分の感覚を養うことができないため、私は同じチームで全て担当できるような組織作りをしていくべきだと考えています。3つのなかで濃淡はもちろん出てきますが、全員にセットでミッションを持たせるようにしています。

HULFT DAYS 2022では「DXのバラバラを、スルスルに。」をテーマに掲げられ、2023年もプロモーションのなかで活用していくとお聞きしています。改めて、このテーマを掲げた背景について教えてください。

樋口DXがものすごく流行った結果、部署ごとに個別にSaaS導入を進めてしまったお客さまが多くいます。その結果、部門ごとのシステムがバラバラに導入されてしまい、DX推進部門はあるものの、現場が追いついていないという困りごとをお聞きするのですが、この領域でHULFTがどう貢献できるのかをずっと考えています。HULFTは、基幹システムのようなミッションクリティカルな領域に対しては価値が届けられていますが、DXのような新しいことに挑戦している領域にはまだ価値が届けられていない。そこには、組織の断裂や連携性の不備などが生まれてしまっており、そこを私たちがつないでいくことで改めて価値提供できるのではと考えています。バラバラになってしまった社内のシステムをつなげることで、多くの企業が取り組むDXもスルスルつなげていけるというメッセージです。

HULFTが描く次世代の姿

最近では、ChatGPTをはじめ、新たなテクノロジーが市場において注目されています。新たなテクノロジーとHULFTはどのように向き合っていくのでしょうか。

宇佐美まだまとまっていませんが、例えばおそらくローコードをノーコードに進化させてくれるのが、ChatGPTだと思っています。日本語のプロンプトでChatGPTにやりたいことを伝えると、それがうまくつながって情報が得られるような。メタバースなどは根幹にWeb3の世界が広がっており、データのつなぎ方などは大きく変わってくるはずです。具体的にはまだ見えていませんが、今期の重点テーマとして考えたいところです。

やはり新たなテクノロジーとの共存については難しいことも多くありそうです。

宇佐美ただし、技術は方法でしかありません。結局私たちが行っている“データをつなぐ”ことは、あまり表面的な技術は関係ないという想いもあります。AIが当たり前で便利だと感じる世界でも、その裏側では絶対に困ることが出てきます。そこを考えていかないといけないと思っています。
いずれにせよ、AIはここ10年で破壊的なイノベーションとして捉えています。ChatGPTにメインフレームをつなぐファイル転送の仕組みをこんな言語でこんな仕様で書き上げてくれ、とプロンプトでお願いしたら、おそらくサンプルが出てきてしまう。それを自分なりにカスタマイズしてビルドすれば動いてしまう世界を想像すると、おそらくスクラッチ開発という概念がなくなってしまうかもしれません。

樋口AIの登場により、現在のシステム開発スキームが今後大きく変わり、つなぎ方のかたちも変わる可能性がありますが、HULFTも進化しながら新しい価値を提供していきたいと考えています。

今後もHULFTに対するお客さまからの期待は変わらないとお考えでしょうか。

樋口HULFTは、ファイルによる業務連携がベースにありますが、人によってはいちいちファイル連携せず、今ではAPIでつなげる時代でしょと言う方もいます。でも、私はなくなるとは思っていません。APIはとても便利ですしいろんなことができますが、設計から作成、メンテナンスまで手作業でやる必要があり、一定のコストがかかります。そこを支援するのがHULFTなわけで、システムが分かれている場合は、本当にファイル転送って有効な仕組みです。メインフレームがオープンシステムになり、クラウドになってサービスへと世界は大きく変化していますが、データをつなぐ仕事は皆さんやらざるを得ない。そこに私たちが引き続き貢献できればと考えています。
先ほどお伝えした通り、30年の歴史あるHULFTがいまやiPaaSも提供しています。これからもお客さまの期待に応え、時代とともにHULFTは進化し続けます。

最後に、今後HULFTがどんな展開をしていくのかについて教えてください。

樋口直近では、2023年度にHULFTの最新バージョンを展開すること考えており、クラウドネイティブな価値提供をテーマにしています。今でも新旧さまざまなシステムが企業には存在しており、課題は散見されています。新しい領域では人材が足らず、新たな領域で開発しても古いシステムとの連携や業務をこなしながらのためとても多忙な方が多い。その結果、優秀な人材を抱え込んで属人化してしまい、新しいことにトライすることが難しいという声をよく聞きます。半面、メインフレームが老朽化して扱える人材も減るなか、クラウドシフトがなかなか追いつかないという声も。そんな世界で、新しい部分をクラウドネイティブにシステムを組もうとしても、HULFT自体はOSに入れて使う仕組みのため、どうしても使いにくい。そこに対して、新たなHULFTにて価値提供していきたいと考えています。

宇佐美これだけ世の中が変化している割に、正直に申し上げて、今のHULFTはリリースが遅いのが現実です。樋口が言ったクラウドネイティブは、実はプロダクトの形だけでなく開発体制もクラウドネイティブにしていく必要がある。事業規模が全然違うものの、AWSなどは1日50サービスぐらいリリースしているほどで、それだけ早く新しいサービスを出してくる実態を目の当たりにすると、追いつくためにはやり方を大きく変えていかないといけない。表向きHULFTはこう変わりましたというものを提供しますが、裏の開発体制も変わっていく姿を見せたいですね。今後もお困りごとがあればどんどん教えていただくというところも含めてうまくやっていきたいです。時代とともに環境や技術、つなぐニーズも大きく変化していくことは間違いありませんが、"お客さまとともに"という意識は変えず、これからも進化していければと考えています。

HUFLTの生みの親 西川 伸次 氏が執筆。対談では語りきれない、HULFT開発物語

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