データ経営で成果を上げる、ワークマンの「しない経営」とは?

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2021年11月17日(水)・18日(木)の2日間、「情報は「知」へと進化する〜未来に向けて〜」をテーマに開催されたオンラインイベント「HULFT DAYS2021」。2日目の18日の基調講演では、ワーキングウェアなどの製造・販売を手がける株式会社ワークマン(以下、ワークマン)の専務取締役 土屋哲雄氏が登壇し、組織変革に起点を置いたDX戦略について解説しました。

同社のエクセルを用いたデータ経営、そして「最重要目標に集中し、それ以外はしない」という「しない経営」は、あまりにも有名です。これらの経営改革は、いかにして4,000億円と言われるアウトドアウェア市場の開拓をもたらしたのでしょうか。経営革新の裏側を土屋氏に語っていただきました。

▼土屋哲雄氏のプロフィール
株式会社ワークマン専務取締役 東北大学特任教授 土屋哲雄
東大経済学部卒。三井物産入社後、海外留学を経て三井物産デジタル社長に就任。本社経営企画室次長、三井情報取締役。2012年ワークマンに入社。19年専務取締役、22年7月より東北大学特任教授に就任。ワークマン店は作業服市場を取り尽くす勢いのため、18年に新業態店「WORKMAN Plus」を仕掛けて大ヒット。20年に女性目線の「#ワークマン女子」、22年4月には大注目の「WORKMAN Shoes」を立ち上げ快進撃中。著書に『ワークマン式「しない経営」』(ダイヤモンド社)。21年12月には2冊目の著書となる『ホワイトフランチャイズ ワークマンのノルマ・残業なしでも年収1000万円以上稼がせる仕組み』(KADOKAWA)を上梓。
※役職や所属は取材時のものです。

客層を拡大しアウトドアウェアで第2のブルーオーシャン市場の開拓に成功

ワークマンは1980年の創業以来、作業服市場のシェアで首位の座を維持し、常に競争優位に立ってきました。しかし、現在は作業服の業態を変えずに、客層を拡大した結果、アウトドアウェアで、作業服に続く第2のブルーオーシャン市場の開拓に成功しています。本講演では、どうやってアウトドアウェア市場を開拓できたかを解説します。

そもそも、アウトドアウェア市場の開拓に至ったのは、作業服市場の市場規模において、ワークマンが1,000店舗・1,000億円を達成した段階で市場のシェアを取り尽くすような狭い業界だったからです。市場が飽和する危機感を覚え、2014年に中期業態変革ビジョンを発表。作業者から一般客向けに顧客を拡大する方針へと転換しました。

目標を客層拡大に据える中、安定した企業成長を図るために、企業文化を変えなければなりませんでした。その企業文化の変革に向けて実施したのが、「社員中心の環境作り」、「データ経営」、「しない経営」の3つの経営変革です。

経営改革に向けて実行した「データ経営」と「しない経営」

まず「社員中心の環境作り」では、①経営が何をやるかについて軸がブレない、②5年間で100万円のベースアップを図るなど経営の本気度を見せる、③社員にストレスをかけない、④商品開発などにかかる時間の制約の撤廃、の4つを実行しました。なぜこうした環境づくりに注力したのか。それは、自社が100年の競争優位を保つためには、普通の社員が普通の業務で変革できる必要があったためです。また、我々経営者層も凡人なんだという意識が社員中心の環境構築を後押ししました。

「データ経営」では、現場で集めたデータによって、最適な品揃えとサプライチェーンマネジメント(SCM)の実現、知見のない新業態の運営、データに基づく社内コミュニケーションの推進を目指しました。意識的に変革を図ったのは、組織マネジメントの在り方です。上に忖度すればそれで良い従来のマネジメントの在り方から、上司の意見は半分間違っているという前提に立ち、現場のデータで説得され意見を変えるのが良い上司だと定義しました。これにより、積極的な現場の業務改善を図ったのです。さらに、DX推進においては、開発の期限を設けないなど、ストレスをかけないDXに注力しました。

3つ目の「しない経営」では、データ経営の一部と被りますが、経営の在り方をガラッと変えました。経営目標は1つに絞ったほか、目標の達成期限は撤廃。計画精度は、「経営者は(店舗の進出判断などで)50%間違う」と定義しました。これは、現代が先を読めないVUCA(「Volatility:変動性)」「Uncertainty:不確実性)」「Complexity:複雑性)」)の時代であることから生じた前提です。ほかに、この予見性の前提に基づき、現場がデータで検証して実行する計画実行の在り方や、ボトムアップのリーダーシップなどを導入しています。

しない経営を実践し、アパレル市場の空白地帯を開拓

これら3つの企業変革を遂行してきましたが、企業変革は客層拡大という経営目標を達成するための達成手段に過ぎません。しない経営とデータ経営は達成手段なのです。

しない経営は、成果が出る市場を選ぶ「ポジショニング戦略」「集中戦略」と位置づけています。例えば、作業服の見せ方を変え、アウトドア商品として異なる客層に売るのは、まさにポジショニングであるほか、経営目標に1つに絞るのは集中戦略と言えるでしょう。

先ほど具体的な方法についてお話しましたが、データ戦略とは、データに基づき変化に強い組織を構築することです。不確実な時代には、現場に情報が存在します。仮にスポーツ用品の売上がコロナ禍で落ちたとしましょう。この場合、スポーツ用品を縮小させて売上がどう変化したかを検証するのが有効です。つまり、データに基づき、現場で社員全員が考えて改革するのが重要と言えます。

こうした中、社員の分析をもとに私はあることに気づきました。縦軸に高価格-低価格、横軸にデザイン性-機能性を取り、4つにセグメント化したアパレル市場のポジションマップを作成した時、機能性に優れ、低価格な左下の市場が空白だったのです。しない経営のノウハウを応用し、客層拡大戦略を遂行するだけに集中しました。さらに、空白市場のターゲットにあたるアウトドアウェア市場は性別に関係なく販売できるため、一挙両得であり、競争がありません。だからこそ、食い込めたのです。