kiji_interview-11_workman_p2.png

プロセス重視の評価やデータ活用研究といったデータ経営の推進

他方で、アウトドアウェア市場に顧客層を広げようとした時、どうデータ経営を進めたのか。1つ目は、実績から、プロセスを重視する業績評価基準の変更です。

以前の営業の業績評価は、売上や在庫額、粗利額といった定量的なものが中心でした。しかし、データ経営の推進に伴い、現在は、商品をどこに、どの位陳列するかを示す棚割の導入率や、長期間使われていない滞留品のMD(マーチャンダイジング)比率など、プロセス評価に注力するようになりました。加えて、改革にどのくらい取り組んだか、を評価指標に追加。改革の成果ではなく、取り組みの姿勢を重要事項としました。

社員のデータ活用力を上げるため、データ活用をテーマにした研修を開催しました。社員の約2割が対象で、簡単なAI分析ツールの使用を目的とした分析チームの講習では、BI(ビジネスインテリジェンス)とエクセルの自動化演習やエクセル関数の組み合わせ方などを指導。指導の結果、営業マンのほとんどがエクセル加工できるようになりました。社員の3%に当たる分析上級者講習では、教師なし学習のクラスタリングや、テキストデータをもとにしたワードクラウドなどの自然言語処理といった高度な分析手法を教授しています。

経営陣の人員削減をし、ベースアップを敢行

ちなみに、社員が中心の環境作りである経営の本気度の施策を具体的に説明しますと、データ活用力と改革マインドを管理職の昇格要件に置きました。この2つを持たない人は部長以上にしません。私は人事に口を出さないのですが、「この管理職はデータを活用したがらない」といったネガティブリストを持っています。ただし、新しいストレスをかけない人事が重要なため、降格人事は一切しませんでした。役職定年を待つなどし、やり過ごしました。

経営陣の人員削減にも取り組みました。私が入社した2012年当時、役員が6人いたのですが、今では3人です。カットした3人分の役員報酬は、社員のベースアップに回し、100万円のベースアップを実現させています。つまり、データ経営は数字以上に、企業分配を変えることが重要と言えるでしょう。

社内でのデータ活用の実例の話に戻ります。データ経営の一環としてSV(スーパーバイザー)部と商品部、ロジスティック部に自発的なデータ分析チームを設置したところ、分析チームでエクセル、Pythonを使った便利ツールが、定型分析に昇格した事例が頻発しました。

代表的なのは、商品部が開発した「カニバリ製品発見ツール」です。このツールは、自社のある製品が他の製品を侵食してしまうカニバリ(共食い)を見つける機能があり、商品番号を入れると、カニバリする商品を一覧化してくれます。また、SV部が作った「未導入品」というツールは、売れ筋だが、未導入の製品を発見する機能があり、SV部の主要業務である品揃えに非常に役立っています。なお、このツールは、イケイケの営業マンが作りました。

このほか、データ活用の事例には、店舗の完全自動発注システムがあります。すでに第3次開発の製品にあたる同システムは、AIにより需要予測や適正在庫、発注計算が最適化されるアルゴリズムが搭載されていることから、一括発注ボタンを押すだけで、発注時間が従来の2時間から、5秒に短縮可能です。欠品防止にも役立ち、導入済みの店舗は未導入の店舗と比べて売上が5〜6%伸長しました。

100年の競争優位を保つDX経営の実現には勝てるポジションを作ること

データ経営に重要なのは、ビジョンを描くだけではなく、組織に浸透させることです。ワークマンは、組織の浸透策の一環として、幹部任用条件に「改革マインド」と「データ活用力」を据えました。その結果、データ活用は向上心のある社員が全員やり始めましたね。今では、社長も入社1年目の社員に混じって研修を受けるなどした結果、データ活用が可能です。

データ活用を組織に浸透させる過程では、さまざまな施策に取り組みました。データ活用者を積極的に褒めたほか、「データこそが最強のコミュニケーション手段」だと位置づけ、現在も継続しています。

結論として、100年の競争優位を保つDX経営を実現するためには、勝てるポジションを作ることです。勝てるポジションとは、社員が100%頑張ると、120%の成果が出る事業に注力することですね。ワークマンの場合、作業服の事業ドメインを変更し、アウトドアやスポーツウェアで販売した結果、市場で勝てました。

ポジショニングは経営目標をたくさん持っていると実現できません。まずは1つに絞る。それでも達成率は3割ぐらいでしょうか。目標達成にあと15年はかかると思います。

また、DX経営では、現場でデータに基づき意思決定できる仕組みを構築することも重要と言えるでしょう。客層を意識した店舗の進化も、データ検証の仕組み構築の1つです。店舗の進歩では、店内にピンクを基調としたブランコを設置したり、RGB(赤Red・緑Green・青Blue)の光で影絵を作れたりする施策を打つことで、「#ワークマン女子」とハッシュタグをつけてインスタグラムに投稿する女性客を増やしています。

経営戦略の遂行で重要なのは、しない経営の徹底

最後に、データ経営も然り、経営戦略の遂行で重要なのは、「しないこと」と、「変えないこと」を決める、「しない経営」を徹底することです。これにより、社員が自ら走るようになります。

それでも、分析の項目不足など、経営的にはまだまだ課題はあります。しかし、IT導入については、新しいデータベースと古いデータベースをパラレル(並行)で走らせるなどし、今後も無理なく進めていきたいと考えています。