3. ビジネス課題の設定

ビジネス課題の設定は、ふわっとした課題感を、詳細に言語化していくプロセスです。言語化の最終ゴールは数字に落とし込むこと。数字に落とし込んだ課題のことを、データ分析では「アウトカム変数」といいます。

少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、最大化/最小化したい一番の目標(計測可能なもの)は何かということです。このゴールが決まらないと、その後の分析設計ができず意味のない結果しか得られないため、アウトカムをなんとなくで決めてしまわないように気をつけてください。間違ったアウトカムの例として「統計的には正しくても、無価値なもの」が挙げられます。例えば、「一度の来店における購買単価」という指標をアウトカムにした場合「セール期間中にまとめ買いをする顧客を重視すべきである」という分析結果が得られることがあります。しかし、実際のビジネスで考えてみると、値引きをするセール期間だけに来店されても利益になりません。
このアウトカム変数を設定するポイントは後述しますが、ふわっとした課題感から適切なアウトカム変数を設定するまでを「ビジネス課題の設定」として覚えておいてください。

ビジネス課題設定の仕方について、例を挙げながら簡単に説明していきます。例えばBtoCのテレフォンアポインター会社なら、「商品の成約率を高めたいが、架電をする時間帯や架電担当者、顧客属性、スクリプトのどの要素が一番成約率に影響しているかが分からない。改善の優先順位をつけたい」といった悩みがあるとします。これをデータ分析のためのビジネス課題として設定するためには、次の3つの流れで考える必要があります。

  1. ① どうなりたいのか?を言語化する
  2. ② 何を調査したらヒントが得られそうか
  3. ③ どの数値を目標にするか

この順序は、課題を設定する上で最も大切なポイントです。しかし、この3つに取り組めていない企業は非常に多いのが現状です。課題を設定するために、まずはここから丁寧に取り組んでみてください。ではこれを、先ほどのテレフォンアポインター会社の例に当てはめて考えてみましょう。

テレフォンアポインター会社の課題設定の例

このように、言語化して課題の整理をすることができます。他にも、働き方改革に取り組む企業の課題例を紹介すると、

働き方改革に取り組む企業の課題設定の例

といった課題を設定することができます。ここまで課題が明確になっていれば、あとはスムーズにいきます。しかし、ここまで読んでくださった方の中には、「理解はできたけど、その3つをどう設定すればいいのかイメージできない」と思った方もいるかもしれません。とくに「①どうなりたいのか?を言語化する」は、ビジネス課題の設定の第一歩を意味していますが、この段階で「そもそも課題を見つけられないことが課題なんだ」ということをよくお聞きします。私の経験上でも「課題の設定や解きたい問題といわれてもよく分からない」という方は非常に多いです。でも安心してください。あのパブロ・ピカソが「描こうとするものを知るには描きはじめねばならない」と言ったように、あまり完璧主義にならず、まずは着手しやすく効果が上がりそうなことからスタートして成功体験を積んでいくことが大切です。そうすることでその後の社内の協力も得やすくなるため、スモールスタートで始めてみましょう。

「ビジネス課題を見つけられない」という方は、まず以下の指標に改善ポイントがないか?を分析してみるといいでしょう。

・解約率
・成約率
・広告費用対効果(ROAS)

これらは、取り組みやすく成果が出やすいマーケティング指標です。逆に、クリック単価(CPC)やPV数を指標にしても利益には直接結びつきません。なるべく利益へのインパクトがあるところを最初にアウトカム変数にして分析してみましょう。

また、注意点としては、アウトカム変数をいきなり統計解析にかけたり、データサイエンティストに渡したりする前に、ダッシュボード等の機能を使って、データを可視化してみることをお勧めします。

数字というのは、人間にとって直感的に理解しにくいので、グラフ等の直感的に理解しやすい形に変換して眺めてみてください。

その時に、例えば時系列グラフであれば、山や谷になっているポイントを探ってみてください。「この曜日のこの時間帯だけ、やたら解約が多いな、なんでだろう?」といった謎が浮かんで来たらチャンスです。そこに何らかの改善ポイントが隠れているかもしれません。

またプロジェクト責任者の方におさえておいていただきたいのは、ビジネス課題は一度決めたものをずっと使い続けていくわけではなく、ブラッシュアップしていくものだということです。ですので、まずは自分がデータに興味を持って、眺めたりいじってみたりすることが大切です。最初は仮決めでも全く問題ないので、スモールスタートから始めてみてください。このレッスンではデータ分析の大切さや方法についてお話をしていますが、ビジネス課題の解決方法はデータ分析だけではありません。課題に対する解決手段は、AIやRPAなど多種多様ですので、解決したい課題に沿って柔軟に手段を選んだり組み合わせたりすることが大切だということも覚えておいていただけると嬉しいです。

4. データ分析の流れ

最後に、ビジネス課題設定ができた後のデータ分析の流れについて簡単にご紹介します。

上記のように、データ分析の流れは大きく8つの段階に分けることができます。今回のレッスンでお話ししたのは、「1. 課題を明確にする」の部分に当たります。課題を設定することができた後は、分析デザイン、つまりその課題を解決するための設計書を作ることが必要です。

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