4. データ活用はなんのためにやるのか

次に、データ活用の目的についてお話していきます。「早速データ活用に取り組んでみたい!」と思っていただいた方もいるかもしれません。しかし、料理をするときに意気込みだけではなく材料や調理器具が必要なのと同じように、データ活用にも下準備が必要です。特に、皆さんが気になるであろう「どんなツールを使うべきか」という部分を考える前に覚えていただきたいことがあるので、そこをおさえた上で、具体的な話に移ろうと思います。ここまでお話したように、データ分析は業績を上げるために有効な手段ですが、その間のプロセスを意識することも非常に重要なポイントです。企業の業績がどんな要因に影響されるのかまとめた統計によれば、テクノロジーの導入は業績に直接的に影響を与えないということが分かっています。では何が強く影響を与えているのか。その答えは、組織能力、つまり会社の意思決定の仕組みなのです。そして統計によれば、テクノロジーの導入は組織能力の向上に非常に有効であることもわかっています。つまり、ツールを導入する際は「企業の業績が上がるか」ではなく「企業の意思決定の仕組みの促進につながるか」を軸にして選ぶことが大切なのです。

企業の組織能力と業績との関係

これまで、企業としてデータを活用することのメリットを述べてきましたが、実は個人のキャリアにとっても多大なメリットがあります。一言で表せば「数字に強くなると人生がイージーモード化する」のです。かなりキャッチーな言葉なのですが、背景には数々のエビデンスが揃っています。例えば、

問題解決力が上がる
収入が高くなる
人生への満足度、幸福度が高くなる

こういったことが、研究によって証明されています。ですので、個人として自分のキャリアを上げていくためにも、数字を扱える力を磨いていただきたいと思います。

5. 「データ活用ができている」状態とは?

ではここからまとめに入っていきます。データ活用をするにあたり、データ活用ができている状態とはどういう状態なのか、そのイメージを掴むことが大切です。データ活用ができている状態というと、ものすごくハードルが高いことに思えるかもしれませんが、実際はそんなに難しくはありません。私が考えるデータ活用ができている状態とは、

数字を共通言語にして、コミュニケーションがとれている状態
リアルタイムで数字を共有し、会議はその数字をもとに話し合える状態

これらの状態をまずは目指してほしいと思います。この状態ではどういった効果が得られるでしょうか。まず、報告書・レポート作成が不要になります。例えば営業会議をする際に、エリアマネージャーが数字を集計して、綺麗なグラフを作って……と、場合によっては10分の会議のために1日かけて資料をまとめている企業も、私の経験上多くいらっしゃいました。会議のために毎回時間をかけて資料をまとめるのは、なかなか大変な作業です。私が支援させていただいているある企業では、週2回の営業会議に報告書やレポートは作成しないようにしています。各担当者が日々の営業記録を付けて、それを自動集計するシステムをスプレッドシートに導入しているので、会議の場ではシートを共有するだけで「Aさんの今の成績はここだから、目標までの数字はこのくらいだね」と話し合うことが可能なのです。このように、リアルデータを共有することで時間短縮というメリットが得られますが、それだけではありません。まとめ方によって見せたいデータだけを見せられるのが報告書やレポートの特徴ですが、クライアントの立場で考えると、加工されたレポートよりもリアルデータを見せた方が信用を獲得しやすいという効果もあるんです。

生のデータ、リアルの売り上げを、社員がリアルタイムで共有。

この先の「データを見ながら仮説を立て、検証する」といったステップについては、次のレッスンでお話していこうと思いますので、今回のレッスンは以上になります。ありがとうございました。

(※1)未来共創イノベーションネットワーク(INCF)「イノベーションによる解決が期待される社会課題一覧」(Resolving Social Issues Through Innovation -2020 Listings of Societal Issues)