データ分析に向く人の特徴

現在はデータビークル社を起業されていますが、その背景にはどんなことがあったのでしょうか。

大学教員を辞めた後、個人的に企業からデータ分析や分析人材の育成の仕事をお受けしていたのですが、徐々にノウハウがたまってきました。そもそもデータ分析において大変なのは、何よりもデータの加工であり、次に手法の選択や変数あるいは特徴量の取捨選択です。これがデータ分析における腕の見せどころの1つですが、この部分が自動化できるのではと考えました。そこで、独自のノウハウを駆使してこれらのプロセスを自動化することで誰でも簡単に、そして高い生産性でデータ分析を行えるプロダクトを構築し、それをメインのビジネスとするために起業したのが株式会社データビークルです。この時作ったプロダクトが今でも我が社の主力製品であるdataDiverというツールになっています。

まさにツール提供をビジネスにされたわけですね。実は日々つぶやかれているTwitterを拝見したのですが、データ分析はご自身の“道楽”で、自動化につながるツールの整備などを仕事と捉えているというつぶやきもありました。

データ分析という行為は、私にとって本当に道楽に近いんですよ。データ分析のためにPython やR言語のコードを書くのは息を吸って吐くぐらいの感覚ですし、人と雑談している時にも「こういうデータ取って分析したら面白そう…」みたいなアイデアがすぐに浮かびます。例えば先日雑談をきっかけに空き時間に分析してみたのが、同じチェーンのハンバーガーの価格で一番コストパフォーマンスの高いメニューは何かということです。それぞれのメニューにパンやパティ、チーズといった材料がいくつ使われているかという条件と、時間帯別の販売価格を併せて分析すると概ねコスト構造がどうなっているかという数理モデルが推定できるわけですが、この数理モデルから予測される値と実際の価格の差を見ると、他の商品と比べて経営上の意図で割安にしている、もしくは逆に割高にしている、ということが分かります。結論として、このチェーンでは昼間のチーズバーガーが最もコスパが高いように設定されていたようですね。

呼吸するようにRのコードを書く…なかなかできることではありません。そんな西内さんから見て、データ分析に向く人と不向きな人の傾向ってありますか。

実は最近よく考えているなかで出た結論を一言でいうと、「煩悩」と「とんち」が備わっているかどうかですね。データ分析は、基本的に楽して競合を出し抜きたいという煩悩の塊なわけです。なまじ真面目で優秀な方は、仕事全般において真面目に頑張るというクセが抜けきらず、いい意味でも悪い意味でも「楽をする」とか「出し抜く」といった煩悩があまりない。そういう煩悩があれば、ここに注力すれば儲かる、コストが減らせるということが分かるとうれしくなるものです。

「ようやく弱点を見つけてやったぜ」といった感覚でしょうか。

おっしゃる通りです。ただし、データ分析をすれば弱点がわかりますが、実際にそこを突くためには何らかの手を打たなければいけません。手を打つ、というのはすなわち、今までやっていなかった新しいことに挑戦するか、これまでやっていた非効率なことをやめるということです。このアイデアは、まさに“とんち”の世界で、綺麗に言えばクリエイティビティと言い換えることもできる。この“煩悩”と“とんち”を兼ね備えている人が、データ分析を仕事に生かせる人ということになると思います。

その2つがそろっていることが重要なポイントなわけですね。

2つがそろっていることが理想ですが、足りない部分は周りと組んでいってもよいでしょう。ただし、その場合は自分の足りない部分を補ってくれる人とのコミュニケーションロスには気をつけないといけません。これは煩悩ととんちの話に限りません。一般的にデータサイエンスのスキルとしては統計的(数学的)、計算機的(IT)、人間的(ビジネス)の3要素が全て必要と言われます。これら全てを一人の人間が極めるのは大変かもしれませんが、だからといって1要素だけを極めてあとは全くやらない、というのでは仕事になりません。例えば「人間的」なビジネス側の言っていることが全く理解できない、という人がいくら数学やITが得意だったとしても、データサイエンスを使って価値を生んでいこうというチームとしてはコミュニケーションロスが大きすぎて深刻なボトルネックになってしまうことでしょう。

双方を兼ね備えた人材は、企業には少ないものなのでしょうか。

最近はDXの推進支援プログラムなどをサービスメニューとして提供しており、単に分析環境をお渡しするだけでなく、データの棚卸はもちろん、経営層におけるビジョンの明確化や意思決定に必要な会議体の整備など意思決定のフローにいたるプロセス整備までを支援しています。大きな企業であってもデータとデジタル技術から競争優位性を生んでいくようなDX推進の人材はどこも不足していますが、我々が用意している研修メニューにご参加いただくことでそうした活動に向いている人材を発掘し、その強みを伸ばしていくことが可能です。わざわざ社外から即戦力となる人材を獲得するよりも、社内にいる、データ分析に向いている人を探す方がコスト面でも大きなメリットになることでしょう。

具体的にはどんな人材が企業内に埋もれているケースが多いのでしょうか。

実は文系の方でも卒論でデータ分析を経験している人は意外と多くいらっしゃいます。心理学や経済学、社会学や教育学の分野でも学生自ら調査設計を行い、データを収集して分析した結果を卒論にまとめることはそう珍しいものではありません。しかし、日本企業の人事部では、ほとんどは卒論でどのような研究に取り組んだのかを把握していません。実際には、R言語や統計解析ソフトウェアのSPSSなどに触れた経験のある人が社内にいるはずなのに、わざわざ数百万円のコストをかけて外注しているなんてケースもしばしば見受けられます。マーケティングでもマネジメントでもビジネスにおいて分析する対象は多くの場合人間であり、人間を理解するための基礎理論を修めているという点はこうした人材の大きなアドバンテージになります。たとえ大学院までデータ分析を経験してきた人材でも、いざ就職すると全く異なる業務を担当することになる、といったミスマッチも実際によく聞かれる話です。

統計の魅力とツールの有用性

統計学やデータ分析の魅力についてどのようにお考えでしょうか。

ビジネスの成功は非常に複雑な現象ではありますが、その事象をハックできることが統計学の面白いところです。現実的にはうわさ話や仮説を気にしないという考え方もありますが、前述したドラクエのように、現実世界においても実際にデータ分析をしてみると、ちょっとやり方を変えるだけで明らかに効率が上がるということが分かってくるわけです。それに気づいていない人よりも圧倒的に優位に立てる、そんな世の中をハックする仕組みというのが、実はたくさん隠れています。競合に先んじてそれに気づけることは、企業にとっても大きなアドバンテージになるでしょう。天才的な人以外見つけられないことを、どうすればハックできるか、見つけることができるのかに面白みがあるのではないでしょうか。

そんな世の中を効率よくハックする際には、御社が提供されているようなツールが役立つわけですね。

データ分析が好きな人は自力で頑張りたいと考える人もいると思いますが、導入する側からすると高い人件費を払い続けるのか、人の代わりにツールに働いてもらう方が割安なのかということはしっかり考えていくべきです。せっかく採用あるいは育成した人材は、もっと高度なことに時間を割いてもらった方が合理的です。ちょっとした商品や販促企画のヒントが欲しい、といった程度のデータ分析で毎回専門家の手を借りるよりは、そうした業務知識のある人自身が便利な分析ツールを使った方が効果面でも効率面でも有利になることが多いでしょう。データ分析を実行すること自体で疲弊するのではなく、どんな課題を設定するのか、そして出てきた分析結果からクリエイティブな施策をどう進めていくのかといった部分にこそ知恵を絞るべきです。データ分析に関する業務負荷を下げるための環境やツールをいかに整備していくかという点が、おそらくDXを推進していくうえで鍵になってくると私たちは考えています。 私たちは前述のdataDiverという分析ツールのほか、データプレパレーションツールであるdataFerryというプロダクトを提供していますが、このツールの裏側ではまさにセゾンテクノロジーが提供するDataSpider Servistaが生かされています。データが管理されている基盤には様々なシステムがありますが、その間を埋めていくものとしてHULFTやDataSpider Servistaがこれからさらに重要なソリューションになってくることでしょう。 我々の目標の1つに、グローバルなソフトウェア企業となることがあります。ビジネスで使うグローバルなソフトウェア企業という観点ではアメリカが圧倒的に強く、ドイツやイスラエル、北欧などからも輩出されているものの、日本からはなかなか出てきていません。その意味では、数少ないロールモデルとしてHULFTの存在は大きく、経営者目線として学ぶべきところが多いと感じています。

企業個別に閉じられた環境から、DXが進むことで情報がつながっていく時代。世の中をハックするためには、業種や業態、企業の垣根を超えたデータ連携プラットフォームが必要だと考えています。その基盤としてのHULFT Squareに対する期待はいかがでしょうか。

DX経営の重要性が認識される現代においても、データサイエンスの仕事においてデータの収集と加工は大きな負担になっております。旧来の業務システムから最新のクラウド環境まで、(業務や企業の垣根にとらわれることなく)一気通貫でデータ連携を推進できるHULFT Squareは多くの会社のDXにおいて福音となることでしょう。