未来の子どもたちに向けて

変化の激しい社会情勢のなかで、教育業界においてどんなことを意識する必要があると思いますか。

 教育を考える際に一番重視しなければいけないのは、子どもたちは今の社会を前提に大人になるわけではないという意識を持つことです。子どもたちは20年後の社会で大人になって働いていくわけで、教育に関わる我々は20年後にくるであろう社会を描いたうえで、そこで求められる力を見据えて日々の教育活動を推進していくことが必要です。過去の価値観に基づいて教育をしてしまうと、ある意味では子どもたちの未来を奪ってしまうことになるという強烈な危機感を持たないといけないのです。

 例えば内燃機関のエンジンを中心にエコシステムを作ってきたトヨタを尻目に、iOSを入れ替えるようにワイヤレスアップデートで自動運転の機能を追加してしまうテスラのようなベンチャーが破壊的なイノベーションを生み出しています。ソーシャルメディアやスマートフォン、宇宙開発ですら、わずか数年で10億ドルを超える時価総額を生み出すベンチャー企業が数多く登場していることからも、20年先には全く違う世界が広がっているはずです。そんな社会をSociety 5.0と呼んでいるわけですが、例えば何かを暗記する、指示に従う、簡単な作業を繰り返しながらドリルを解くといった能力は、まさにAIやロボットが得意とする領域。20年後にはどんな力を身につけさせてあげないといけないのかということを、教育に関わる全ての人間が考えなければいけないというのが私の考え方の根本にあります。

将来を担う鎌倉市の子どもたちに向けて、具体的にはどんなことに取り組んでいるのでしょうか。

 20年後の社会からの要請を見通したうえで、学校教育の姿に落とし込んでいくことが大切です。Society 5.0に対応したスキルや学びに向かう姿勢、そしてSDGsという目標に向けて、子ども一人ひとりが主役となれる主体的かつ対話的な授業を実現すべきですし、個々の能力や関心に応じた最適化した学びが実現されるべきだと考えています。しかし、その変化のスピードに対して学校のリソースはすぐに変わることは難しいため、社会も含めた多くの人たちと連携して多様な教育環境を実現していくことが必要だと考えています。その実現には、ツールや経験、環境といったそれぞれボトルネックとなる壁があるため、それらを取り除いていく必要があります。

 そのなかで私が中核として現在位置付けているのが、「鎌倉スクールコラボファンド」という取り組みです。鎌倉に関わりのある大学や教育ベンチャー、NPOなどと連携することで、SDGsの教育やアントレプレナーシップ、プログラミングといった学びのリソースを得られる環境があります。ただし、学校側に外部と連携するコネクションや資金がないため、一部の自治体では平日の昼間にボランティアとして協力していただいているケースも。その場合、参加いただく企業の課題解決にはつながるものの、学校の課題解決につなげられるような持続可能な環境とは言えません。

 そこで、社会と連携するための財政基盤を「鎌倉スクールコラボファンド」として整備していくことで、社会的要請を実現するような教育活動、例えば子どもたちが自分自身の思いを探究して社会に対して価値提供できる取り組みにつながる教育やプログラミングに関する教育などの際に、社会とコラボレーションしていける環境を作り出そうとしています。当初は一般財源で確保するという考え方もありましたが、現状のコロナ禍において鎌倉市の税収も大きく落ち込むなど、常に安定して財源を確保していくことが難しい状況にあります。社会に開かれた学校教育活動を作っていくためにも、ふるさと納税などの仕組みを活用してクラウドファンディングを行うことで、財源の確保についても社会に開かれたものにしていこうという取り組みです。まさに社会と一緒に作り上げる教育を通じて、教育環境をより良いものにしていくことが、鎌倉市が描いている教育の未来像なのです。