人の可能性を引き出すためのAI導入
何百万通りもの配送ルートを自動最適化する挑戦

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ステンレスやチタンなどの高機能材料の販売・加工事業を行う能勢鋼材株式会社は、創立から50年以上の歴史を持つ老舗企業だ。巨大な航空機に使用される部品から、細かな加工を必要とする製品までカバーする高い技術力と、顧客密着型のサービスを武器に成長を続けてきた。現場には、長年受け継がれてきた技術への誇りとこだわりが息づいていている。しかしそれ故に、一部の業務が属人化しているという課題もあった。従業員数84名。大阪のものづくり企業は、いかにしてAIを現場に取り入れたのか。

AI導入による業務効率化に取り組んだ経緯

まずは、能勢鋼材さまの事業とお二人について簡単に教えてください。

能勢 ステンレスやチタンなどの鋼材の加工販売を主な事業とし、毎月数十万個の商品を約3,000社のお客様にお届けしています。高い技術力と品質でお客様から信頼をいただいており、規格外のカスタマイズや極小ロットの製品を短納期で対応する柔軟性が強みです。2016年には航空業界にも進出し、業務を拡大しています。私は、2004年に代表に就任しました。

柴坂 私は25年前に能勢鋼材に入社し、現在は総務統括部門の部門長を任されております。総務・経理を担当していましたが、データサイエンスにはもともと興味があり、全社としてDXに取り組もうという能勢の考えの中で、プロジェクトリーダーとしてAI導入を進めています。

今回の取り組みに至った経緯はどのようなものだったのでしょうか。

能勢 小ロット・短納期を強みとする以上、いかに多くのお客様に多くの製品を届けることができるか、というのが経営上の命題です。しかしながら、「どの製品をどういうルートで誰がいつ配送するか」とい振り分け業務が属人化しており、とても非効率的なまま行われてきました。

柴坂 小ロット・短納期が故に外部業者には頼みにくく、配送量も一定ではありません。日によってバラつきがある中で、毎日手作業で配送ルートを作っていました。配送ドライバーからも不平不満が多く、振り分けを担当する社員の負担も大きい状況で、これはなんとかしなければと。そこで、兼ねてより付き合いのあった帝国データバンクさんに相談してみたんです。

能勢 最初は軽い気持ちというか「こういうのAIで自動化できない?」くらいのフランクな相談だったんですが、向こうがすごく興味を持ってくれて。驚くくらいトントン拍子で話が進みましたね。

柴坂 機械学習の導入 技術を持っている滋賀大学さんと共同で設立したDEMLセンター(Data Engineering and Machine Learning)の取り組みを紹介していただき、すぐに共同プロジェクトがスタートしました。

解決すべきテーマの設定と実際の取り組み

DEMLセンターとのプロジェクトはどのように進んだのでしょうか。

能勢 最初に行ったのは、解決すべき課題を明確化し、ゴールを決めることです。私たちの場合はそれが明確だったので「複数台トラックによる配送ルート設定の自動化」というテーマがすぐに決まりました。具体的には、これまで社員の経験に頼っていた暗黙知を、いかに型式値化するか。「あの人しか 知らない」という情報を現場から無くすことをゴールとしました。

柴坂 実際の取り組みとしては、トラックの積載量や稼働時間、交通ルートの規制などの制約条件をクリアした上で、トラックの台数や移動時間、さらにドライバーの不満指数などからなる配送コストを最小にするアルゴリズムを、滋賀大学の皆さんと共に構築していきました。

アルゴリズムを構築していく上で新しい発見などはありましたか。

柴坂 発見だらけでしたね。例えば、AIによって導き出した2つの配送ルートをマップ上に可視化してみると、ルートAの配送先のうち1箇所だけがすごく離れた場所、それもルートB付近にある。単純な距離で考えれば、この配送先はルートBで回ったほうが効率的だろうと思えるのですが、実はこの配送先は高速道路のインターチェンジ付近にあり、ルートAで回ったほうが結果的に時間が短縮できることが分かったんです。

能勢 配送ルートの自動化と一口に言っても、大きなトラックが通れる道かどうかとか、一方通行だから回り道をしないといけないとか、物理的な制約がいくつもあります。それに加えて、顧客特性も加味しないといけません。例えば「ここのお客さまは、到着してから15分は待ち時間がある」といったような事情も、お客様ごとにあるわけです。何百通りと考えられる配送ルートを、そう言った制約も加味して機械学習で最適化し、可視化していくことで、私たちとしても大いに発見を得られました。

能勢鋼材株式会社 代表取締役社長 能勢 孝一 氏 能勢鋼材株式会社 代表取締役社長 能勢 孝一 氏