グループ連結経営推進を支える新海外基本システムをSAP R/3を中核に構築
伊藤忠商事では、新たなビジネスモデルの構築による収益構造の変革、新しい伊藤忠商事を支える経営体制の構築、という2本柱をもつ大きなテーマ「グループ連結経営推進」を掲げ、A&P戦略のもと、グループ連結経営推進を支える情報システムインフラとして本社の基幹システムにSAP R/3を導入するプロジェクトが発足。2002年3月に導入が完了しています。
SAP R/3は本社メインのため、国内事業会社は従来のシステム(自社パッケージ)を活かし、2003年2月から順次導入。海外現地法人・事業会社のシステムについては、1996年から稼働し、基本的な商社ビジネス要件を満たしているITOCHU International(北米拠点)のSAP R/3を新海外基本システムのベースに再構築することが決定しました。
これら本社、国内事業会社、海外現地法人・事業会社の情報システムインフラの再構築により、グループ連結経営推進を図るのが目的です。新海外基本システムについては、データセンターを香港に設置し、そこにすべてのシステムを集約して運用する方針となりました。
ただし、SAP R/3だけで、伊藤忠商事が必要としているビジネス要件をすべてサポートしているわけではありませんでした。「ビジネスで取り扱うものが広範囲なため、色々なサブシステムが稼働しています。既存サブシステムをすべて捨ててSAP R/3上で作り直せるかというと、やはりそれは現実的ではありません。既存サブシステムを活かす場合、SAP R/3(基幹システム)との連携が必要になります」(IT企画部 浦上善一郎氏)
また、従来は日次の夜間バッチ処理で基幹システムと連携していましたが、これからの要件として、同社はリアルタイムまたはそれに準ずる連携の機能をユーザーに提供していく必要性を感じていたこともあり、SAP R/3とサブシステムの連携にEAIツールを検討しました。
そこで採用されたのが、アプレッソの「DataSpider Enterprise Server」(以下、DataSpider)です。「DataSpider」はBusiness Connector経由でSAP R/3と接続でき、BAPI、IDOC、RFC、ALEのすべてのインターフェースをサポートしています。また、プラットフォームに依存しないJava(tm)技術がベースとなっており、SAP CA-XMLの認定製品でもあります。
採用の理由については「アプレッソの方からDataSpiderの説明を受けたとき、当社の要件をよく理解してくれ、説明もわかりやすかったので、導入後もまかせて安心なのではないかという印象をもったのが実はいちばん大きいかもしれません。ベンチャー企業の製品ですが、標準技術をベースにした製品コンセプトを知って、直感的に良い製品だと思いました。セミナーを受けたプロジェクトメンバーの技術者からは非常に高い評価でした」(浦上氏)とのこと。標準技術ベースという製品コンセプト、導入後を考慮したサポート力が採用の決め手となったようです。
また、情報システムインフラの再構築にあたって、サブシステム側の改修を極力少なくしたいという要件もあり、作り込みが必要になる他社製品と比較して優位性があったことも採用理由のひとつです。このような経緯で、「DataSpider」英語版が香港のデータセンターのWindows環境に導入されました。
「DataSpider」でSAP R/3と複数サブシステムの連携を短期開発
「DataSpider」は、各拠点のさまざまなサブシステムと香港のデータセンターにあるSAP R/3をIP/VPN経由でつなぐ、新海外基本システムのインターフェースサーバーとして機能しています。各サブシステムとデータセンターをダイレクトにつなぐ場合、サブシステムごとにインターフェースを開発しなければなりません。そこで、「DataSpider」がサブシステム間のインターフェースの違いを吸収し、シームレスな連携を実現する“EAIサーバー”となっているのです。
このEAIサーバーを介して販売データや購買データがSAP R/3に一元化されていきます。当初はEAIサーバーには、別のEAI製品の利用を考えていましたが、作業工数が非常に多くなることが想定されたため、「DataSpider」の検討・採用となりました。
新海外基本システムの構築が承認されたのは2002年9月。同年11月~2003年1月末に北米拠点であるITOCHU InternationalのSAP(SD/MM系が主)を香港のデータセンターに移植。2003年2月9月にはグローバルで使えるSAPのグローバルテンプレートを開発し、並行して2月~3月にEAIツールの検討を行い4月に「DataSpider」の採用を決定。5月~11月に研修(トレーニング)を含めて、データセンターへの「DataSpider」導入及び開発が行われました。4月の「DataSpider」採用決定から12月のサービスインまで、実質は数カ月で完了しなければならなかったわけです。
「DataSpiderを採用していなければ、きっと間に合わなかったと思います。グループ会社である株式会社CRCソリューションズから4名ほどプロジェクトに参加してもらっていて、そのSE1名がDataSpiderのトレーニングを受けました。そして、同じくグループ会社である香港のCISD(ASIA)Co., Ltd.のスタッフにナレッジトランスファーをしてもらったのですが、1カ月もかかっていません。GUIツールとして完成度が高いという実感がありますね。CISD(ASIA) Co., Ltdのスタッフに聞いてみたところ、DataSpiderがなかったらスケジュールは間に合わなかったので導入して良かったという意見でした」(浦上氏)
旧システムからの残高移行処理にも「DataSpider」を活用
SAP R/3の稼働にあたり、旧システムからは、マスターデータだけでなく、これまでの勘定系データも随時移行する必要がありました。毎月締める勘定系、前月分のオープンアイテム、まだ締まっていない契約などの残高移行が必要なのです。「決算期のタイミングで切り替えられたら、前のデータは旧システムを見てくださいとも言えるのですが、実際は順次稼動させていくため、どうしても期中での残高移行が発生します」(浦上氏)
「DataSpider」は、新旧システム間のデータの違いを吸収し、スムーズなデータ移行を実現しました。連携処理と同じインターフェースサーバーを介して残高移行を行ったことにより、新たな開発がなく、コスト削減につながっています。
また、基幹システムとサブシステムの連携については、以前は日次の夜間バッチ処理を行っていましたが、「DataSpider」の導入によって、現在は30分ごとの準リアルタイム処理を実現しています。「もともと日次だったものですから、ニーズがあればもっと時間を短縮したいと思います。ただ、リアルタイムにすると、どうしてもサーバー負荷が高まるので、現在は準リアルタイムにしています」(浦上氏)
30分に1回の処理のため、何らかの原因で前回処理されなかった部分は再度処理を実行することでタイムラグの少ない対応が可能になっています。さらに、万一のエラー発生時は、「DataSpider」のメール通知機能を利用して迅速な対応ができるようになっています。「DataSpider」は、この運用・メンテナンス部分についても高い評価をいただいています。
本格展開する新海外基本システムを支える「DataSpider」
伊藤忠商事では、「フェーズA」として今回のグローバルテンプレートの開発と香港でのSAP R/3導入を行い、「フェーズB」としてシンガポール・バンコク、中国、ヨーロッパ4カ国へのSAP R/3による新海外基本システムの展開を行っています。そして2005年からは、「フェーズC」として豪州はじめとした残りの地域も新海外基本システムを展開する計画です。
「現在は、シンガポール・バンコク、中国、ヨーロッパの各地域ごとに導入責任者を選任し、目下導入準備進捗中です。基本的にはすべての地域に、2004年度中のサービスインを予定しています。基本要件は今回のフェーズAである程度まとまっていますので、その他の地域では各国の法定要件を主に詰めていき、残移行、トレーニングをきっちりと行えば、問題はないと判断しております。なお、すべての拠点をハブである香港のデータセンターにつないで、システムを集中管理する予定です」(浦上氏)
グローバルにビジネスを展開する同社のシステムにおいて、SAP R/3が今後も基幹システムを担っていきます。そして、グループ連結経営推進のため、さまざまなサブシステムとSAP R/3が「DataSpider」によって連携されていきます。